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【創作・長編】エロかと思ったら王道だった 【勇者:やっぱり処女は最高だねぇ】前編

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【創作・長編】エロかと思ったら王道だった 【勇者:やっぱり処女は最高だねぇ】前編
この記事の所要時間: 9650

久しぶりにネタ記事を。

 

ネットが発達し、誰でも自分の作品を公開することができる、現在。

プロでなくとも面白い作品を作る人は、沢山います。

 

今回、「ベタな展開だけど良い話だった」と感じた物語見つけましたので、紹介します。

 

多少エロ・グロの表現(特に男性にとってはグロ)が含まれますが、時間のある方は読んでみてください。

とある勇者と戦士のお話です。

 

※このサイトがまとめサイトになったワケではありません

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転載元:勇者「やっぱり処女は最高だね」戦士「え?」

 

勇者「やっぱり処女は最高だね」戦士「え?」

 

1: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:42:39.42 ID:OA2mS+iNo

 

戦士「突然何言い出すんですか」勇者「花は散るから美しいのと同じだよ」

戦士「は、はあ」

勇者ナハトさんは不思議な人だ。

背が高くスラッとしていて、顔立ちもかなり整っている。
中性的な目元は女性受けが良いようだ。

立ち振る舞いの一つ一つに貴族のような気品がある。
しかし、何の脈絡も無く妙な話をし出すことがあった。

勇者「いやあ、あの子は綺麗だなあ」

そう言ってナハトさんが眺めたのは、決して醜くはないが美人でもない、
良くも悪くも素朴な普通の少女だった。

一瞬彼の美的センスを疑ったが、
俺はすぐに彼が彼女の容姿を褒めているわけではないことに気がついた。

 

第一話 処女愛

※エログロ注意(特に男性はグロ注意)

 

2: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:45:07.63 ID:OA2mS+iNo

 

勇者「僕はわかってしまうのだよ」

勇者「人が貞操を守っているか、それとも既に捨ててしまったのかがね」

勇者「どのような相手に捧げたのかもわかるよ」

勇者「相思相愛の相手か、愛してはいないが婚姻を結んだ相手か、」

勇者「それとも、好きでもない相手に無理矢理奪われてしまったのか……ね」

勇者「そんなこと知られたくもないだろうが、嫌でも瞬時に悟ってしまう」

勇者「いやあ、困ったものだねえ。はっはっは」

戦士「はあ……」

勇者「僕は人一倍魔力から情報を読み取ることには長けているが、」

勇者「こんな情報まで読み取ってしまうなんて、はは、本当に罪だ」

ナハトさんは常に芝居がかった話し方をする。
その振る舞いは壮年の貴族のようである。

 

3: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:45:52.50 ID:OA2mS+iNo

 

勇者「君は童貞を保っているね。そして全く女性に免疫が無い」

戦士「俺を馬鹿にしてるんですか」

勇者「いやあ、決してそんなことはないよ。むしろ賞賛しているのさ」

勇者「処女童貞は愛する人と結婚するまで守るべきものだからね」

勇者「純潔は愛する人に捧げるからこそ価値が生まれるものなのだよ!」

戦士「そ、そうですか」

こんな話題、小綺麗な喫茶店でする話じゃない。

勇者「ああ、あの子も綺麗だな」

この人は無類の処女好きだが、決して処女を食うことを好んでいるわけではない。
彼は処女を保った少女を見つけると、羨望しているかのような生暖かい眼差しを向ける。

俺がこの風変わりな人と出会ったのは、今より少し前のことだった。

 

4: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:46:20.97 ID:OA2mS+iNo

―――――――
――

俺は剣の修行のため、故郷を出て旅をしていた。
そしてとある小さな村に立ち寄ったのだが、運悪く魔物の群れに襲われてしまった。

一体一体は弱いがいかんせん数が多く、何より群れのリーダーが強かった。
いくら斬り伏せてもきりがなく、リーダーは暴れ放題。

戦士「ちくしょうっ」

ようやくリーダーの元へ辿り着いたが、
獣人型の大きな魔物が振るった大剣に、俺はあっさりと吹き飛ばされてしまった。

そこで現れたのがナハトさんだった。

勇者「ははは、好き放題やってくれているねえ」

黒に近い紺色の髪に、それと同系色の軍服のような服。
そんな髪色、人間ではありえない。染めているのかと思った。
歳は二十歳くらいだろうか。俺よりはいくつか上だろう。

ナハトさんは細い体で両手用の長剣を軽がると片手で扱い、あっさりと群れを殲滅した。

戦士「弟子にしてください!」

俺はすぐにナハトさんの元へ走り、土下座した。

勇者「え? すまないね、弟子は募集していないんだ」

即答だった。

 

5: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:46:52.56 ID:OA2mS+iNo

 

ナハトさんの眼を覗くと、深い夜空のような藍色をしていた。
こんな髪と目の色の人は見たことがない。

戦士「お願いします! 俺、強くなりたいんです!」

勇者「理由は?」

戦士「立派な戦士となり、故郷を守る兵士となりたいからです」

勇者「…………」

戦士「…………」

勇者「……はっはっは、気に入った」

勇者「君が僕から何かを学べると思うのならついておいで」

勇者「ただし、剣以外の面倒は見ないよ。いいね?」

戦士「はい!」

勇者「僕の名はナハト。君は?」

戦士「ヘリオスです」

勇者「ヘリオス君か。立派な名だ」

 

6: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:48:14.97 ID:OA2mS+iNo

 

戦士「不思議な髪の色ですね」

勇者「ああ、僕は魔力の影響を受けやすい体質でね」

勇者「これは僕の魔力の色に染まっているのだよ」

勇者「このような体質は魔適体質と言い、非常に珍しい」

勇者「常人よりも遙かに容易く魔力を制御できる。便利だよ」

俺は魔法なんてからっきしわからないが、雰囲気からこの人が不思議な力を持っていることはわかった。
でないと、こんなに細い体で剣を触れるはずがない。

ナハトさんは長袖の服を着ているから、どれほど筋肉がついているかは確認できない。
だが、おそらく俺の方が太い腕をしているだろう。

勇者「ああ、返り血で汚れてしまっているね」

勇者「川で洗ってくるといい」

戦士「ナハトさんは……返り血、全くついてませんね」

勇者「僕は返り血が大嫌いでね」

勇者「気がつけば返り血を浴びずに戦う術を見に着けていたよ」

あれほどの魔物を倒したとは信じられないほど、彼の服には血の染み一つ付いていなかった。

 

7: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:48:57.80 ID:OA2mS+iNo

 

宿が空いておらず、野宿しようとしたところナハトさんが借りている部屋に泊めてもらえることになった。
剣以外の面倒は見ないと言いつつ、彼はなんだかんだで面倒見がいい。

勇者「やはり夜はいいね」

彼は魔石灯の明かりを消すと、窓から夜空を見上げた。

戦士「はあ」

勇者「僕は夜が好きだ」

勇者「闇が大地を覆い、無数の星々が煌めき、風が草木を歌わせる」

勇者「人々は寝静まり、時折響くのは虫の音と鳥の声」

勇者「ああ、素晴らしい。夜の静けさに乾杯だ」

そう言って彼はただの水を飲んだ。果実酒を飲んでいるかのように味わっている。
彼の発言にどう反応すればいいのかわからなかったから、とりあえず聞くだけ聞いた。

戦士「…………」

詩人みたいな人だなと思った。少なくとも普通の人とは違っている。

勇者「どうか我等に月の処女神の加護があらんことを」

そんなこんなで、俺とナハトさんの旅は始まった。

 

8: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:49:23.63 ID:OA2mS+iNo

 

――
――――――――

勇者「ここの軽食はおいしいね」

戦士「そうっすね」

処女が云々という食欲の失せそうな話を聞かされていたのだが、
だいぶ慣れたのでわりと平気だった。

勇者「パスタでも追加注文するかい?」

勇者「君はそれだけじゃ足りないだろう」

戦士「あ、いいんですか」

勇者「もちろんさ。僕の我が儘でこの店に入ったのだからね」

奇妙な人ではあるが、俺には優しい。処女に対しては更に紳士的だ。

ナハトさんは常に笑顔を絶やさない。
しかし、どこか底知れない妖しさを秘めている。人間味が薄い。

その夜空のような瞳には、言葉では表しようのない不気味さと言うか、
神秘的さと表すべきか……とにかく、深みがあった。

学のない俺に表現できることではない。

 

9: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:50:13.97 ID:OA2mS+iNo

 

勇者「君はいいねえ。実に純真だ」

戦士「……俺も人並に妄想くらいしてますよ?」

勇者「少年らしい健全な妄想だけだろう。欲に己を支配され女性を傷付けることは決してない」

勇者「君くらいの年頃の男の子は、性への興味関心から女子を性的にからかうことが多い」

勇者「僕はそういう奴が大嫌いなのだよ」

勇者「女の子を見る下卑た眼差し……許せないね」

あなたが処女に向けている生暖かい眼差しもなかなか気味が悪いような気がするが。

勇者「悪寒が走る。股間を剣で切り取ってやりたくなるよ」

思春期の女の子のようなことを言う人だ。
これが推定二十歳前後の青年の言うことなのだろうか。

いや、世の中には様々な男がいる。
至極堅実で清潔好きな男の中には、極端な思考の持ち主もいるのかもしれない。

いや、目の前にいる。

戦士「……ナハトさんは、異性経験あるんですか?」

勇者「さあ、どうだろうね」

彼は妖しい笑みを更に深めた。
この人は童貞を恥じるような人ではない。何故ぼかす必要があるのだろうか。
もしかしたら、意外と故郷に嫁さんと子供を残してきているかもしれないとも思ったのだが。

 

10: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:52:02.34 ID:OA2mS+iNo

 

戦士「そういや、何がきっかけで魔王討伐の旅をしているんですか?」

勇者「他にやることが思いつかなかったからだよ」

戦士「はあ」

勇者「ま、復讐と言えばそうなるのかな」

勇者「魔物を倒している内に、僕はいつの間にか勇者と呼ばれるようになった」

勇者「僕は英雄なんて柄じゃないんだがねえ」

戦士「守りたいものとか、ないんですか?」

勇者「ううむ、僕にはもう何も無いからねえ」

ああ、じゃあ妻子はいなさそうだ。

勇者「強いて言えば、この世界の女の子達の純潔かな。はっはっは」

戦士「は、はあ」

いまいち謎の多い人だ。

昼食を食べ終えて外に出た。

この町はそこそこ発展しており、石造りの建物がたくさん並んでいる。
大通りは混んでいたため、人通りの少ない裏道を通って宿へ向かうこととなった。

突然、女の子の悲鳴が響いたが、不自然にその悲鳴は途切れた。
誰かが無理矢理口を塞いだようだった。

 

11: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:52:53.28 ID:OA2mS+iNo

 

悲鳴が聞こえた方向へ俺達は走った。

細い裏道から更に細く入り組んだ路地裏に入ると、女の子が男に口を抑えられていた。
男は筋肉質で、片手にナイフを握っている。

暴漢「う、動くな!」

男はこっちに気がつくと、慌ててこっちにナイフを向けた。

勇者「…………」

俺は何かまずい気配を感じ、思わずナハトさんの横顔を見た。

相変わらず微笑んではいるが、彼の目は非常に冷めていた。背筋に悪寒が走った。
そして、彼は微笑んだまま剣を抜き、男のナイフを男の手ごと吹っ飛ばした。

女の子「ひっ!」

女の子は驚いて男から離れ、倒れるように俺の胸に飛び込んできた。
しかし俺にときめきを感じる余裕はない。

次の瞬間には、男が股間から血を垂れ流していた。

男は悲鳴を上げている。

勇者「ははは」

 

12: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:53:30.31 ID:OA2mS+iNo

 

勇者「僕にはわかりますよ。あなたはこの女性を穢そうとしていましたね」

勇者「姦淫された女性の末路を知っていますか?」

勇者「訴えれば周囲に穢れたことが知れ渡り、白い目で見られる」

勇者「嫁ぎ先も見つからない」

勇者「だからと言って訴えなければ泣き寝入りだ」

勇者「しかし運悪く暴漢の子を孕んでしまうこともある」

ナハトさんはすごい勢いで喋りながら、男の股間に何度も剣を突き立てた。

勇者「この世界の穢された女性の多くは幸せになれません」

勇者「そんな女性の気持ちをわかっていますか? わかっていませんよね?」

勇者「それともわかった上でやろうとしていたのですか?」

勇者「あなたのようなケダモノに子孫を残す資格なんて無いと僕は思うのですよ」

あまりにも恐ろしい光景に、俺も女の子も硬直してしまっていた。

勇者「処女は愛する人のために大切に守られなければならないのです」

 

13: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/12(土) 17:54:07.66 ID:OA2mS+iNo

 

勇者「……さあ、憲兵を呼んできましょうか」

勇者「ああ、お嬢さん、怖がらせてしまいましたね」

勇者「少しだけ付き合っていただけるでしょうか?」

勇者「この男があなたに危害を加えようとしていたことを証言していただけないと、」

勇者「僕が傷害罪で検挙されてしまいかねませんからね。ははは」

女の子「っ……」

俺はとんでもない人を師匠にしてしまった。

ああ、股間が切ない。

 

 

22: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:47:43.33 ID:VYZi8vTWo

 

男性「これは、娘を助けていただいたお礼でございます」

そう言って男性からナハトさんに手渡されたのは、大粒のダイヤモンドだった。

勇者「お礼なんて不要です」

勇者「女性の純潔を守ることが僕にとっての何よりの喜びですから」

男性「何かお礼をしないと私の気がすみません!」

男性「このダイヤモンドは偶然手に入れた物なのですが、」

男性「私のようなただの平民にとっては手に余る代物なのです」

男性「このようなものを持っていても強盗に襲われかねませんし、」

男性「売り飛ばして大金を手に入れても同じことです」

男性「ですが、お強い勇者様のお役になら立つと思うのです」

勇者「では受け取りましょう。旅にはお金が必要ですからね」

男性「娘が無事に帰ってきてくれて、本当によかった……」

 

 

第二話 花の都

 

23: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:48:09.94 ID:VYZi8vTWo

 

ナハトさんは恐ろしい人だが、剣の腕は確かだ。
俺は彼との旅をやめないことにした。

彼は別に悪い人ではない……はずだ。
暴漢から女性を救い、もう二度と女性を暴行できないような体にしただけだ。
フェミニストなあまりやり方が残虐になってしまっただけなんだ。

俺達は次の町へ向かって平原を歩いている。
馬車を借りてもよかったのだが、体力をつけるために敢えて徒歩で行くことになった。

勇者「このダイヤは素晴らしいね。魔力伝導率が非常に高い」

勇者「宝石としても魔鉱石としても優れている」

ダイヤを日にかざしながら彼は言った。

 

24: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:48:42.16 ID:VYZi8vTWo

 

勇者「しかし、僕とダイヤの相性はあまり良くない」

勇者「何かの交渉には使えるかもしれないね」

勇者「ヘリオス君、魔力と魔鉱石の関係を知っているかい?」

戦士「いいえ、あまり……」

戦士「魔鉱石が明かりや食べ物の保存に使われていることくらいしか」

勇者「一般的に、魔鉱石は自分の魔力の色と近ければ近いほど相性が良い」

勇者「魔鉱石には、魔術の威力を増幅させる働きがある」

勇者「逆に、魔力伝導率……魔力の流れやすさの低い石を使うことで、」

勇者「魔術の暴走を抑えることもできるのだよ」

戦士「そうなんですか」

 

25: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:49:37.64 ID:VYZi8vTWo

 

現代、魔鉱石は生活にかかせない物となっている。

ただ魔鉱石を持っているだけでは意味がないが、
魔鉱石に魔力を込めることで光を灯すことができたり、周囲の空気を冷やすことができたり、
消毒を行ったりすることが可能となるのだ。
用途に応じて様々な石が利用されている。

だが、俺は魔法に関する知識に乏しいので、
専門の魔術師が魔鉱石をどのように利用しているのかに関しては全く知らなかった。

勇者「僕の魔力は深い青だから、ラピスラズリやアズライトとは相性がいいね」

勇者「君は……夕日、いや朝日のように燃え上がる橙だね」

勇者「オレンジサファイアあたりが似合いそうだ」

戦士「でも俺、魔法なんて使えませんよ」

勇者「君はいい子だから、特別に魔適傾向を高めてあげよう」

戦士「え?」

ナハトさんは俺の額に手をかざした。

 

26: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:50:14.84 ID:VYZi8vTWo

 

胸が燃え上がるように熱くなったかと思うと、俺の全身に熱が広がった。

勇者「恐れることはない。君が元々持っている力を解放しただけなのだからね」

勇者「髪色や瞳の色も変わってはいないよ」

勇者「練習すれば、感覚的に魔力を操れるようになる」

勇者「今度、君に合う魔鉱石を探しに行こう」

勇者「僕も自分に合う石を探しているんだ。なかなかしっくりくる物が見つからなくてね」

勇者「魔王を倒すには、最高に相性の良い石が必要なんだ」

ナハトさんは、魔王城がそびえていると言われている北を眺めた。

魔王と何か因縁でもあるのだろうか、と思ってしまうような眼差しだった。

勇者「ほら、町が見えてきたよ」

勇者「花の都、ルルディブルクだ」

 

27: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:50:44.49 ID:VYZi8vTWo

 

~花の都・ルルディブルク~

勇者「いやあ、素晴らしい光景だね」

花の都と呼ばれているだけあって、様々な花が咲き乱れて街を飾っていた。

勇者「この花々のように、処女もいつか散ってしまう」

勇者「ああ、なんて儚く美しいのだろう」

この人の並々ならぬ処女への執着は一体何なのだろう。

勇者「貞淑な女性のように、この花が踏みにじられることなく咲き続けることを願おう」

貞操観念が高いのは良いことだとは思うが、普通それをわざわざ他人に言うだろうか。

田舎の狭い社会で育った俺にはよくわからない。

 

28: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:51:47.33 ID:VYZi8vTWo

 

元騎士「こんなところで貴様と出会うとはな、さくらんぼ狩りの勇者ナハト」

勇者「おや、これはこれは」

勇者「姦通罪により解職させられた元騎士のディオニュソス・ド・トンベル君じゃないか」

戦士「さくらんぼ狩り……?」

元騎士「こいつの二つ名だ」

勇者「この異名を考えた人のセンスは素晴らしいと思うよ」

元騎士「ふん。早速で悪いが、俺にかけた呪いを解いてもらおうじゃないか」

勇者「お断りだね」

元騎士「解呪してもらえるまでここを通すわけにはいかないな」

勇者「なら無理矢理通るまでだ」

元騎士「おっと」

非常に険悪な空気が漂った。

俺は股間を切られた暴漢の姿を思い出してゾッとした。
この元騎士さんには逃げてほしい。

元騎士「男嫌いの貴様が男を連れているとは」

戦士「……」

勇者「はっはっは、この子は君と違ってウブなんだ」

勇者「僕の嫌いな人種じゃあないんでね」

両者は笑いながら睨み合っている。
とにかく怖い。

 

29: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:52:53.23 ID:VYZi8vTWo

 

勇者「僕は全ての男性を嫌っているわけではないのだよ」

勇者「至って堅実で誠実で清潔好きな男性なら大歓迎さ」

俺は単に女性慣れしていないだけなのだが……。

勇者「君のような穢れきった女好きの淫魔モドキは殺したいほど嫌いだがね」

元騎士「俺はおまえのような頭の固い古びた思想の持ち主が大嫌いだよ」

元騎士「さあはやく俺の呪いを解け」

勇者「それほど女性を抱きたいのなら娼館に行きたまえ。はっはっは」

勇者「生活のために体を売らざるをえなかった女性達を支援するんだ」

元騎士「街中で女性を落としてこそ達成感を得られることがわからんのか」

戦士「……どんな呪いをかけたんですか?」

勇者「はっはっは」

元騎士「こいつは! 俺が妻に秘密で愛人を作っていたことを国に通報した挙句!」

元騎士「配偶者か娼婦以外とは情を交わせないという呪いをかけやがったのだ!」

勇者「娼婦相手になら屹立するようにしただけ感謝してくれたまえ」

戦士「じゃあ、奥さんと……」

元騎士「離婚されたに決まっているだろう! ちくしょう!」

元騎士「おかげで俺は騎士の称号を剥奪され、今じゃ流れの傭兵だ」

 

30: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:55:05.50 ID:VYZi8vTWo

 

勇者「君の故郷は、公爵及び王族以外の人間が愛人を持つことを禁じられていたからねえ」

勇者「僕は法に従ったまでだよ。はっはっは」

元騎士「だからといって俺に呪いをかけることはないだろう!」

勇者「僕は、女性が悪質な獣に騙され純潔を奪われるという悲劇が生まれないようにしただけさ」

戦士「人に呪いをかけることは大抵の国で禁じられてるんじゃ……」

勇者「多くの国、宗教は婚外交渉を良しとしていない」

勇者「僕を訴えたところで、まともに耳を貸してくれる法律家はいるのかな」

元騎士「おのれ……」

法に従ってこの元騎士さんを告発したのに自分も法を破っている。
めちゃくちゃである。
法ではなく自分の信念に従ったのだろう。

勇者「はっはっは、諦めたまえ」

元騎士「ならば決闘だ!」

勇者「よかろう、そこの広場で始めようじゃないか」

 

31: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:56:10.54 ID:VYZi8vTWo

 

ディオさんは、傭兵にしては身だしなみが整っている。
元騎士なだけあって、パッと見普通の騎士に見えた。とても傭兵には見えない。

勇者「はは、教科書通りの太刀筋だね」

元騎士「舐めおって!」

動きも綺麗だ。かなりの使い手だろう。

しかし、ナハトさんはディオさんの鋭い剣さばきを軽々と流し続けている。
いたって余裕のようだ。

勇者「君がどれほど頑張っても僕には敵わないよ」

そう言うと、彼はディオさんに対して素早く水平に剣を振った。

元騎士「なっ!?」

ディオさんの剣は切れてしまった。

折れたのではない。綺麗に切断されたのだ。

勇者「はっはっは、すまない。力を入れ過ぎてしまった」

元騎士「…………」

ディオさんは茫然と自分の剣の残っている半身を見つめている。

勇者「君から申し込まれた決闘なのだから弁償はしないよ」

勇者「さあ、行こうかヘリオス君」

戦士「はい」

 

32: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:56:48.58 ID:VYZi8vTWo

 

戦士「ナハトさんって踵の高いブーツ履いてますよね」

戦士「戦いにくくないんですか?」

靴を履かなくても彼は俺より十センチほど身長が高く、足も充分長い。

勇者「もうすっかり慣れてしまったよ」

戦士「どうしてわざわざそんな靴を履いてるんですか?」

勇者「足を血で汚したくなくてね」

勇者「宿に行く前に武器屋に寄ろうか。君の剣、だいぶ刃こぼれしているだろう」

丁度買い替え時だった。

勇者「…………」

勇者「僕にも君にも合いそうな魔鉱石は無いね」

勇者「君の武器だけでも探そう」

勇者「この剣はどうだい。君の体格に合っていると思うよ」

戦士「……ほんとですね」

手渡されたのは、刀身はそう長くないが幅がやや広めの剣だった。

俺の手によく馴染んでいる。

勇者「早速空き地を探して軽く修行しようか」

この時、ナハトさんは少しだけ人間味のある笑みをしていた。

 

33: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:57:34.31 ID:VYZi8vTWo

 

勇者「君はまだ未熟だが、伸び代は大いにある」

勇者「僕は君の成長が楽しみだよ」

妖しい雰囲気を漂わせてはいるが、その言葉が嘘だとは思えない。

戦士「ありがとうございます」

勇者「運動したらお腹が空いたね。すぐに宿を確保してから早めの夕食にしようか」

勇者「どうしたんだい? 食欲が無いのかい」

戦士「いや……俺はナハトさんほど綺麗に食事できないもんですから」

彼は雑音一つ立てずに料理を平らげられる。

勇者「はっはっは、君の食べ方だって野性味が合っていいじゃないか」

勇者「僕は君の個性を否定しないよ」

勇者「高級なレストランというわけでもないのだから、好きなように食べたらいい」

勇者「たくさん食べるんだ。そして、大いに成長するんだ」

彼はまるで子を見守る母親のような、暖かい眼差しを俺に向けた。
ナハトさんが最も人間らしい表情をするのは、食事時だ。

 

34: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 13:59:03.75 ID:VYZi8vTWo

 

戦士「ナハトさんってどんな修行してきたんですか?」

勇者「ほとんど独学だね」

戦士「ええ!?」

思わず咽かけた。

勇者「実のところ、僕が道場でまともに剣を習ったのは一ヶ月だけなのだよ」

勇者「もう八年近く前になるね」

勇者「弟子入りしてすぐに強くなりすぎてしまってね」

勇者「ある時、僕は兄弟子に大怪我を負わせてしまった」

勇者「すぐに治療したから大事には至らなかったが、僕は道場にいられなくなってしまった」

勇者「それ以来一人旅だよ」

戦士「はあ」

流石勇者と呼ばれているだけある。

勇者「ああ、あの子は軽い気持ちで男友達に処女を捧げてしまったようだ」

勇者「実に嘆かわしい。若者の性の乱れは忌むべきものだ」

尤も、一般的に想像される勇者像からはかけ離れているが。

 

35: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:00:00.54 ID:VYZi8vTWo

 

――翌日

この町はかなり広い。
今日は町の反対側まで移動し、町を出るのは明日にすることになった。

勇者「日の入りまで自由行動にしよう」

勇者「この美しい街をゆっくり見て回るといい」

勇者「ああ、うっかり花街に入らないようにね。君は未成年なのだから」

勇者「この町は数年前に春画の規制が厳しくなってね」

勇者「その結果性犯罪が増加し、対策として娼館が増やされた」

勇者「西の区画は風俗店だらけだ。ああ、嘆かわしい」

勇者「いやらしいからという理由で性の捌け口を規制したのに、」

勇者「実際の女性を犠牲にしてしまっては元も子もないじゃないか」

勇者「せっかくこの街は美しいのに、花売りの女性が多いのは悲しいね」

勇者「ああ、今言った花とはこの町の名産物のことじゃないよ」

俺には彼がどういった意味で花という言葉を使ったのかよくわからなかったが、
話の流れ的に体を売っている女性のことを指しているのだろうと察することができた。

 

36: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:00:37.37 ID:VYZi8vTWo

 

元騎士「よう、また会ったな」

一人で街をぶらついていると、昨日のディオさんに会った。

元騎士「おまえ、よくあんな奴と旅なんてできるな」

戦士「はあ」

元騎士「ま、くれぐれもさくらんぼを刈り取られないようにな」

そういうと、彼は紅水晶で妖しく彩られた街路へ入っていった。
俺は意図せず西の区画のすぐ前まで来てしまっていたらしい。

もう日も傾いていたし、宿に向かおう。
そう思った瞬間、一人の商人が目に入った。

その商人は黒いローブで顔を隠し、花街へ向かって荷台を引いている。
荷台は厚い布で覆われていたが、中に誰かがいるような気がした。

ナハトさんに魔適傾向を高めてもらったおかげだろうか。
俺は他人の魔力をほんの少しだけ感じ取れるようになっていた。
俺はどうしてもその荷台の中身が気になり、ナハトさんの言いつけを破って商人の後を追った。

 

37: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:01:08.54 ID:VYZi8vTWo

 

娼婦「そこのボク~! ちょっと寄っていかない?」

戦士「ひえっ……み、未成年ですから!」

お色気満々のお姉さん方を恐れつつ、花街を進む。

俺は親しい女性といえば母親と妹くらいだ。
義務教育学校でも女子とは無縁だった。嫌われることは無いが関わることも無かった。
強面気味なのであまり女の子が近寄ってこなかったのである。

また、田舎だったため美しく着飾った女性というのもいなかった。
だから積極的な女性には怯えてしまう。

決して女性に興味が無いわけではない。
仲良くなるなら控え目で清楚な子がいいな……そう、あそこにいる子みたいな。

戦士「……?」

とても娼婦には見えない、素朴な少女が娼館の看板を持っている。
妙だ。俺は風俗のことなんて全くわからないが、確かな違和感を覚えた。

黒い商人は路地裏へと入っていった。

 

38: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:01:40.65 ID:VYZi8vTWo

 

勘付かれないよう、気配を消して様子を窺う。

黒商人「この時間に来て正解だった」

黒商人「夜に動いては物音が響くからな」

娼館長「だから人込みに紛れて少女を運んできたというのか」

娼館長「大胆なことをしたものだな。で、いくらだ?」

黒商人「40万Gでどうだ。なかなか顔立ちが整っているぞ」

商人は荷台にかけていた布をはぐった。

少女「…………」

やっぱり、中には少女が閉じ込められていた。
口を布で塞がれていて、手足も縛られている。

今、俺の目の前で人身売買が行われている……!

娼館長「ううむ……精々20万だろう」

黒商人「何を言うか。どんなに下げても35万だ」

戦士「おまえら!!」

 

39: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:02:33.05 ID:VYZi8vTWo

 

戦士「こんなことやって、許されると思っているのか!?」

娼館長「おい、気付かれとるじゃないか」

黒商人「俺としたことが……まあ問題ない。相手はガキ一人だ」

娼館長「それもそうだな」

娼館の主は指を鳴らした。
黒い装いの傭兵らしき男が四人現れ、俺に襲いかかる。

戦士「ひっ」

冷や汗をかきながらも、どうにか複数人を相手にできた。
狭い路地裏だったからこそだろう。広ければ背後を取られていた。

あまり人を斬ることは好きじゃないのだが、そんなことを言っていたら兵士になんてなれやしない。

少女「……!」

戦士「今助けるぞ!」

黒商人「なんて小僧だ……」

娼館長「だが傭兵ならいくらでもいる」

娼館の主が再び指を鳴らすと、更に傭兵が現れた。

元騎士「おい、何か物騒な音が聞こえてきたんだが」

 

40: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:03:43.70 ID:VYZi8vTWo

 

元騎士「何やってんだ、おまえら」

戦士「人を呼んできてください! できれば国家憲兵を!」

元騎士「その間におまえ殺されちまうだろ。助太刀してや……」

元騎士「あ、まだ剣新調してなかった」

そう話している間にも、傭兵達が襲いかかってきた。

ディオさんは丸腰で応戦してくれている。
流石元騎士というだけあって、剣が無くても体術で傭兵を倒している。

黒商人「この場を見られた以上、どちらも生きて帰すわけにはいかんな」

元騎士「おいおいマジかよ」

背後にもどこからか傭兵が飛び降りてきた。

元騎士「この身のこなし、暗殺者じゃねえか……」

元騎士「金に物を言わせてとんでもない奴雇ってんな」

ディオさんは倒した傭兵から短剣を奪ったが、
強者相手に慣れない武器で戦うのは限界があるだろう。

 

41: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:04:43.00 ID:VYZi8vTWo

 

日はもう落ちていて、不気味な紅水晶の明かりが薄暗く辺りを照らしている。

元騎士「くっ!」

戦士「わっ!」

ディオさんが体勢を崩し、それに巻き込まれて俺も倒れてしまった。
傭兵達に刃を向けられる。

なんてこった。正義感に任せて厄介事に首を突っ込んだばかりに俺は殺されてしまうのか。
俺がもっと強ければこんなことにはならなかったというのに。

黒商人「終わりだ」

少女「……」

痛みを覚悟して目を瞑ったが、その瞬間聞き覚えのある笑い声が聞こえた。

勇者「はっはっは、なんだいこれは。違法取引でもしていたのかい」

彼は一瞬で傭兵達を斬り伏せた。

黒商人「紺色の髪……まさか、貴様は」

娼館長「さくらんぼ狩りの勇者、ナハト……!」

いまいち締まらない異名である。

勇者「連れの帰りが遅かったのでね、魔力を追ってきたのだよ」

勇者「ヘリオス君、よく頑張ったね。後でご褒美をあげよう」

勇者「ああ、ディオ君。剣を弁償しないというのは撤回するよ」

勇者「君には飛び切り良い剣を贈るとしよう。……さて」

勇者「君達には罰をプレゼントしないとね」

ナハトさんは真っ直ぐ腕を伸ばし、商人と娼館の主に切っ先を向けた。

 

42: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:05:45.24 ID:VYZi8vTWo

 

勇者「その少女はどこから連れてきたんだい」

黒商人「ひっ……」

彼は一歩一歩二人に近付いていく。

勇者「ああ、君達はなんて穢れた魔力を纏っているんだ」

勇者「汚い商売を長年続けていたのだろう」

勇者「黒いローブを着た君は盗賊のにおいがするね。どこの所属だい」

黒商人「い、言えるかそんなこと……!」

勇者「言わないのなら君の男根が飛ぶことになるよ。いいのかい?」

元騎士「相変わらずえげつねえな……」

黒商人「う……黒獅子盗賊団だ」

黒獅子盗賊団……噂は聞いたことがある。
かなり大規模で、何隊もの討伐隊が犠牲になっても尚殲滅できていないらしい。

勇者「それを聞けたら充分だ」

そう言うと、ナハトさんは黒商人の股間に切っ先を向けて何かの魔術を発動した。

勇者「正直に答えてくれましたからね。切断はしないでおきましょう」

勇者「ただし、もう二度と使い物になりませんがね」

元騎士「ああ……俺にかけやがった呪いより強力なやつだ……」

勇者「ああ、犯罪の香りがしたので憲兵を呼んでおきました」

勇者「もうそろそろ到着するでしょう」

娼館長「そ、そんな……おしまいだあ……」

 

43: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:06:21.69 ID:VYZi8vTWo

 

少女「あ、ありがとうございます!」

勇者「怖かったろう。もう安心していいのだよ」

勇者「ああ、良かった。君は盗賊に遊ばれはしなかったようだね」

勇者「君を救うことができて僕も喜びを感じているよ」

ナハトさんは持っていた一輪の花を少女の髪に刺した。
街をうろついている間に買っていたのだろう。

勇者「……この地域の領主には監視を強化するよう伝えなければ」

元騎士「死ぬかと思った……」

元騎士「おいナハト、俺はおまえの連れを助けてやったんだ。夕飯奢れ。」

勇者「いいだろう。後はこの町の兵に任せてディナーにしようか」

 

44: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:07:03.07 ID:VYZi8vTWo

 

戦士「あの子、ちゃんと故郷に帰れるでしょうか」

勇者「あの区画に売られ、不法に働かされていた少女達は全員憲兵に保護される」

勇者「無事帰郷できるはずさ」

勇者「……その後、幸せに暮らせるとは限らないがね」

元騎士「傷もんにされちまった女を娶ろうとする物好きはなかなかいないからなあ」

後味の悪い話だ。

勇者「君も女性を傷物にする悪党なのだがね」

元騎士「おまえのおかげですっかり元気を出せなくなっちまったがな」

勇者「ふしだらな行為は慎むに限る。君は一人遊びを楽しみたまえ」

せっかくの豪華な夕飯が不味くなりそうな会話である。
適当に聞き流しながら食事に集中することにした。

あの黒い商人は、おそらく一人遊びすらできない体にされてしまったのだろう。
あくどい商売をしていた人間に同情の余地はないはずなのだが、
どうしても哀れみを覚えてしまうのは男の性なのかもしれない。

 

45: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/13(日) 14:08:47.00 ID:VYZi8vTWo

 

彼は邪な男に対して本当に容赦がない。
ナハトさんを怒らせるようなことだけはすまいと、俺は心に誓ったのだった。

ああ、股間が切ない。

 

51: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:18:29.83 ID:lkpJeLCyo

 

勇者「僕は別に非処女が嫌いなわけではないよ」

勇者「処女は純潔を愛する人に捧げられる可能性を持っている」

勇者「その未来を祝福しているだけさ」

勇者「娼婦の存在は称賛に値するね」

勇者「彼女達の存在によって性犯罪の発生率が下がるのだから」

戦士「はあ」

彼はよく長話をする。

彼の声は別に女性らしいわけではないが、
男声にしてはやや柔らかいよう不思議な声色である。

勇者「非処女の中でも、母となった女性は特に素晴らしい」

勇者「なんせ、命をかけて子を産み、育んでいるわけだからね」

勇者「僕は母性に溢れた女性が大好きだ」

素性が不明なわりには自己主張が激しい人だ。

 

第三話 港町

 

52: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:18:56.13 ID:lkpJeLCyo

 

花の都を出た俺達は、平原を越えて港町アクアマリーナへ到着した。
山と海に挟まれた美しい都市だ。

俺達の左手には広々とした海が、前方から右手にかけては緑が映えた山がある。

勇者「山の幸と海の幸の両方を味わえる。これほど恵まれた土地はなかなか無いよ」

都市を囲う山の中腹には、一本の巨大な木がそびえ立っている。

勇者「あの木の真下に、成長を促す大きな魔鉱石が埋まっているらしくてね」

勇者「自然から生まれた天然の魔力を魔鉱石が吸い、」

勇者「魔鉱石の力で木が成長し……というサイクルを繰り返しているらしい」

戦士「すごい眺めですね」

あの木は遠く離れた土地からも見えていたが、近くから見ると正に壮観である。

 

53: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:19:29.57 ID:lkpJeLCyo

 

勇者「この都市は山からも海からも魔鉱石が採れ、」

勇者「港町ということもあって他に類を見ないほど貿易が盛んなんだ」

勇者「何故海から魔鉱石が採れるか知っているかい?」

戦士「いえ」

勇者「あの山の向こうには大きな川があってね」

勇者「その川によって遠く離れた土地の石が流され、この町の浜へ流れ着くというわけさ」

勇者「主に採れるのは翡翠だね。コランダムの産地でもある」

戦士「詳しいっすね。おお、異国の商人だらけ」

勇者「ああ。この町なら良い魔鉱石が見つかるかもしれないね」

白を基調とした、細やかなデザインが施された建物が並んでいる。

しかし、全くデザインの異なる建物も点在している。
貿易都市故か、異国の文化を模した建築物もちょくちょく建てられるのだろう。

 

54: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:20:13.78 ID:lkpJeLCyo

 

至る所で商人が商売をしている。町中が市場のようだ。

二羽の鮮やかな緑色の鳥が売られているのが目に入った。
こんなに派手な色の鳥は見たことがない。

近くでよく見てみると、違和感を覚えた。
普通、鳥の足の指は前三本後ろ一本な気がするのだが、その鳥は前後共に二本だったのだ。

勇者「ウロコインコの一種だね」

勇者「ああ、この子達はつがいだね。一羽は卵を持っているよ」

勇者「ほら、腹が膨らんでいるだろう」

戦士「そんなのよくわかりますね」

勇者「もう一羽のお尻周りの羽を見てごらん。他の部位の羽よりもバタついているだろう」

勇者「仲睦まじく交尾に励んでいる証拠だ。ははは、幸せ者め」

戦士「は、はあ」

店主も苦笑いしている。

勇者「…………インコの淫行」

ぼそりとナハトさんが何かを呟いたような気がしたが、聞こえなかったことにした。

 

55: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:20:47.67 ID:lkpJeLCyo

 

数多くの石を取り扱っている商人を見つけた。

勇者「君には、シトリンやカルサイトが合うような気がするが……」

勇者「……ああ、これが良い。手を近付けてみてごらん」

手を近付けると、指がピリッとした。
その石は透明なオレンジ色だった。

勇者「インペリアルトパーズ。探し物を引き寄せてくれる石だよ」

勇者「他のトパーズと違って日の光にも強い」

勇者「石の中には、日光を当てると色褪せてしまう物も少なくないんだ」

戦士「トパーズって……高いんじゃ。俺あんま金持ってないですよ」

勇者「構わないさ、僕が出す。君の剣に取り付けるための台座もこしらえよう」

勇者「幸いこの町には優秀な細工師がいる」

彼は一つの石に目を止めた。

勇者「……商人、随分珍しい石を揃えているのだね」

商人「その分値段も張るがねえ」

商人「この町は金持ちが多いおかげで商売が捗っているよ」

勇者「これほど僕と相性の良い石は初めて見たよ。触ってもいいかい」

商人「手袋はしているようだね。くれぐれも落とさんでくれよ」

 

56: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:21:23.20 ID:lkpJeLCyo

 

彼が手に取った石は半透明な深い青紫色をしており、

中に別の鉱物が入っているのか夜空のように輝いている。

勇者「キラキラしている鱗片はヘマタイトと呼ばれる、鉄の石だよ」

勇者「だが、内包されている鉱物はこれだけじゃない」

勇者「ほら、この方向からこの石を見てごらん」

少し角度を変えて光を当てると、その石は紫みがかった深紅に染まった。
星空が血飛沫に変わった瞬間だった。背筋がゾッとした。

勇者「レピドクロサイトという赤い鉱物も含まれているんだ」

勇者「ヘマタイトと絶妙なバランスで共存している。実に僕に相応しい」

勇者「この石の名はブラッドショット・アイオライト」

商人「よく知ってるねえ、お兄さん」

勇者「商人、この石もいただこう」

商人「その石は希少だからどんなに値下げしても100万Gは下らないよ」

勇者「このダイヤモンドと交換でどうだい」

商人「……ぉぉおおおおお!」

商人「なんだその特大のダイヤは! この店の石全てと交換しても釣りが足りないほどだ」

勇者「僕には扱いづらい代物だからね。釣りは要らないよ」

 

57: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:21:50.30 ID:lkpJeLCyo

 

勇者「いやあ、素晴らしいね。これほどの石が手に入るとは」

ナハトさんはずっとアイオライトとかいう石を眺めている。

勇者「この石は貞操を象徴しているんだ。僕らしい石だとは思わないかい」

戦士「正にぴったりですね」

勇者「しかしね、この石には僕に不相応な話もあるんだ」

戦士「はあ」

勇者「結婚を導く石でもあるらしいのだよ」

勇者「ある地方では、両親が大人になった娘にこの石を贈る習慣があったそうだ」

勇者「一途な愛を見つけて幸せな結婚ができるように、と願いをこめてね」

勇者「ああ、もちろんこのブラッドショット・アイオライトではなく、」

勇者「ほとんどが普通のアイオライトだっただろうけどね」

勇者「僕は結婚とは無縁な存在なのだよ」

勇者「ま、僕が求めているのはオカルトなパワーストーンとしての価値ではなく、」

勇者「あくまで魔鉱石としての実用性だからね。存分に活用させてもらうよ」

勇者「アイオライトが愛を導く……」

戦士「…………」

この人は浮世離れした雰囲気をまとってはいるが、
非常につまらない駄洒落を思いつくところは人間臭いかもしれない。

 

58: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:22:34.42 ID:lkpJeLCyo

 

勇者「予約が立て込んでいてね、台座ができあがるまで一週間ほどかかってしまうそうだ」

勇者「僕はその間に近辺の村を回るつもりだが、君はどうするんだい」

戦士「あ、じゃあついていきます」

購入した石を細工師に預けて町を出た。

近くの山中や平原に小さな村が点在しているが、どこも生活水準は高いらしい。
俺の故郷と大して変わらない規模の村でも、あまり田舎臭さは感じられなかった。
すぐ近くに技術の発達した都市があるためだろう。

ある村に立ち寄った時、不穏な噂を耳にした。

村人「黒獅子盗賊団の拠点が、最近この辺りに移ったなんて話がありまして……」

村人「アクアマリーナを狙っているそうです。この村も巻き添えをくらうでしょう」

村人「既に娘が何人か行方不明になってしまっています」

村人「おお勇者様、どうか我等をお救いください」

勇者「わかりました。もしペンデュラムをお持ちでしたら貸していただきたい」

勇者「できることなら透明度の高い青系統の石で、大粒の物を」

村人「すぐに村中を探して参ります!」

 

59: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:23:14.69 ID:lkpJeLCyo

 

ナハトさんは、村人が用意した振り子に魔力を込めた。

勇者「大きな集団なら、多少離れていてもすぐに見つけられますよ」

鎖に繋がれた青い石が輝き出し、しばらく経つと一定の方向を指し示した。

勇者「あちらですね」

村人「おお……」

勇者「では早速退治してきましょう」

村人「い、今すぐですか!?」

勇者「早い方が良いでしょう。こうしている間にも犠牲者が出るかもしれません」

勇者「丁度殲滅したいと思っていた盗賊団です」

国家憲兵「しかし、できるだけ盗賊団員は殺さずに捕らえたいのだ」

国家憲兵「聞き出さなければならない情報があまりにも多い」

勇者「殺さなければいいのですね。わかりました」

国家憲兵「明日、作戦を練り憲兵隊と共に……ああっちょっと」

ナハトさんは憲兵の静止を聞かずに走っていった。
魔力で身体能力を上げているのだろう。とても追いつけるスピードではない。

ナハトさんが何をしようと考えているか、容易に想像できた。
少々足が竦んだが、俺は彼を追いかけた。

 

60: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:24:01.79 ID:lkpJeLCyo

 

すぐに彼を見失ってしまったが、足跡を辿ることでどうにか方向を間違えずに済んだ。
何キロ走っただろうか。到着した頃にはすっかり日が沈んでいた。

この辺りは数十メートルほどありそうな大きな岩が多く、林も茂っている。
盗賊が隠れるのには確かに適していた。

奥の方に、オレンジ色の光が灯った大きな古い建物が見えた。
過去に何らかの目的で建てられたものを、隠れ家として利用しているのだろう。

男の悲鳴がいくつか聞こえた。俺は奥に進んだ。

何人ものゴロツキが苦しそうに呻いている。

案の定男根を狩られていた。服に血が付いているが、出血量は多くない。
おそらく、死なないように止血魔法をかけたのだろう。

地獄絵図である。俺の股間に口があったら悲鳴を上げていたに違いない。

盗賊1「うぁあぁぁああ」

盗賊2「だずげでぐれえぇぇ」

戦士「ひぁぁ……」

思わず自分の股を両手で押さえてしまった。

 

61: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:24:52.30 ID:lkpJeLCyo

 

階段を駆け上がると、ナハトさんの声が聞こえた。

以前暴漢を倒した時のように、ものすごいスピードで何かを喋っている。
だが、あの時と違って笑みが消えていた。

嫌っていた返り血さえも気にせず、何度も盗賊の頭領らしき男の体を斬りつけている。
斬っては回復させ斬っては回復させを繰り返し、苦痛を与えているようだ。

戦士「ナ、ハト……さん……」

あまりにも恐ろしい光景に、俺は腰を抜かしてしまった。

勇者「今までどれだけの女性を傷付けてきたんです?」

勇者「自分が何人の女性を不幸にしたか数えられますか?」

勇者「女性だけじゃありません。あなた方は女性の家族や友人をも不幸に陥れたのです」

頭領「ひぐゃあがあああ」

勇者「捕らわれていた少女達を見ましたよ」

勇者「この世の終わりのような表情をしていました」

勇者「どう責任取るんです? 取りようがありませんよね?」

頭領「あがっだじゅけっぎゅああああ!!」

死ぬよりもつらいだろう。俺は震えが止まらない。

 

62: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:26:25.25 ID:lkpJeLCyo

 

勇者「おや、ヘリオス君。よく追いつくことができたね」

彼は笑みを取り戻し、俺を見た。

いつもの優しげで妖しい笑みだったが、少々硬い。怒っているためだろう。

勇者「二階、西の部屋に女性が捕らえられている。保護してあげてくれないかい」

戦士「は、はい」

ガクガク震える足腰をどうにか立たせ、その場に背を向けた瞬間、
聞くに堪えない音が耳に届いた。

男が文字では表せない悲鳴を上げている。

振り向くと、ナハトさんがブーツの踵で頭領の片玉を踏み潰していた。

勇者「あなたはどれだけの女性を穢してきたのですか」

そして、もう片方にも足を乗せる。

その後、盗賊の頭領がどのような拷問を受けることになるのか容易に想像できた。
したくないのに察してしまった。

すぐにこの場を離れよう。
呪いをかけられなくても、精神的ショックで不能になりそうだ。

 

63: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:27:47.09 ID:lkpJeLCyo

 

俺を追ってきた兵隊達と一緒に、捕らわれていた女性を助け出した。
彼等は満月と魔石灯の明かりでどうにか俺やナハトさんの足跡を辿ることができたらしい。

外に出て空を見上げると、眩しいほど月と星が輝いていた。
なんて明るい夜なのだろう。

美しい夜空の下で、男の証を奪われた武骨な盗賊達が連行されている。

保護された女性の中には涙を流している人も少なくなかったが、
それが安堵の涙なのか絶望の涙なのか、俺にはわからなかった。

勇者「僕が怖いのなら、無理についてくることはないのだよ」

その言葉に、少し寂しさが混じっているような気がした。

怖くないと言えば嘘になるが、彼は多くの人を救ったのだ。
何隊もの討伐隊が敗れた大盗賊団をたった一人で壊滅させた。
その強さは本物である。

そして、もし彼が盗賊団を討伐しなかったら、これからも犠牲となる人は増え続けただろう。

戦士「俺、強くなりたいですから」

花の都で殺されそうになった時、俺はくやしくてたまらなかった。
自分の弱さが腹立たしかった。

勇者「そうかい」

 

64: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/15(火) 21:28:38.83 ID:lkpJeLCyo

 

正直、俺は彼の優しさと強さに憧れている。

彼から学べることがあるのだから、ここで離れるわけにはいかない。

もっと力をつけないと立派な兵士にはなれないだろう。

しかし、盗賊団の無残な姿は瞼に焼き付いている。

当分寝覚めは悪いだろう。

ああ、股間がとてもとても切ない。

第四話 海上

70: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:07:49.72 ID:GpRrX+/1o
アクアマリーナで魔鉱石を剣に装備するための台座を受け取った俺達は、
船に乗って別の大陸へと向かっている。 勇者「海はいいね。母なる海だ」 勇者「この広々とした青い海原を眺めていると、母様のことを思い出すよ」 戦士「はあ」 勇者「僕の母は素晴らしい女性だった」勇者「強く、気高く、逆境にも負けない気丈な人だったよ」勇者「ああ、母様……」

この人も一応人間から産まれていたのか。

 

71: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:08:25.93 ID:GpRrX+/1o

 

……かなり失礼なことを考えてしまった。

勇者「何を驚いた顔をしているんだい」

勇者「ところで、君のお母様は一体どんな方なんだい」

戦士「ごく普通の肝っ玉母ちゃんっすよ」

勇者「はは、素晴らしいね。逞しい女性は美しい」

戦士「見た目はそんな良くないですよ。太ってるし」

勇者「容姿のことを言っているのではないよ。在り方を指しているんだ」

この人の人間味の無さは一体何なのだろう。

人間臭い面はあるが、どうにも人間として違和感があるのである。

役者めいた立ち振る舞いの所為だろうか。
この人の身振りを見ると、この人らしくないと感じてしまう。

芝居がかった振る舞いをしていないこの人なんて見たことはないのだが、
何故かそう思った。

 

72: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:08:57.72 ID:GpRrX+/1o

 

勇者「今は良い時代だ」

勇者「魔鉱石の応用技術の発達により、平民でも充分豊かな生活ができる」

勇者「自分達で魔鉱石の魔力補給ができない家庭は他人から魔力を買う必要があるが、」

勇者「それもそう高額というわけではない」

勇者「家事の負担が減った為女性も働きやすくなった」

勇者「平民が豊かだから貴族への反発も少ない」

勇者「貴族は平民から充分に税金を得、統治し、平民は安心して暮らすことができる」

勇者「ああ素晴らしいね。この世は美しいもので溢れている」

勇者「しかし穢された女性への風当たりは強い」

この人は一日中女性のことしか考えていないのだろうか。

勇者「なんて残酷な世界なのだろうね」

勇者「この世は美しくて残酷だ。はっはっは」

ナハトさんは本当によく喋る。

英雄「おい、そこのおまえ!」

 

73: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:09:39.53 ID:GpRrX+/1o

 

話しかけてきたのは、俺とそう歳の変わらなさそうな少年だった。
青を基調とした服に赤いマントを羽織っている。

勇者「ん?」

英雄「おまえはさくらんぼ狩りの勇者、ナハトだな」

英雄「私はプティアの国より正式に勇者と任命されし者、アキレス」

英雄「魔王を討伐すべく旅をしている」

背後には数人の若者が控えている。仲間だろう。

英雄「勇者の名をかけて、私と勝負してもらおう」

勇者「別に僕は自発的に勇者を名乗っているわけではないのだがね」

勇者「そもそも勇者を役職としている国があるなんてね。驚きだよ」

英雄「剣を抜け!」

勇者「やれやれ。仕方がないね」

英雄「そ、そんなに大きな剣を片手で……」

ナハトさんは肩幅が無いわけではないが、線の細い体付きだ。

一見レイピアを華麗に扱っていそうなイメージの沸く容姿であるため、
ツーハンデッドソードを片手で構えているのはなかなか異様に見えるだろう。

 

74: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:10:23.55 ID:GpRrX+/1o

 

勇者「おや、随分驚いているようだね」

勇者「ああ、そうだ。ヘリオス君、僕の代わりに戦ってくれないかい」

戦士「え、俺ですか?」

英雄「な、逃げるのか!?」

勇者「僕と戦いたければ、まず僕の弟子を倒してみせてくれたまえ」

英雄「仕方ないな」

戦士「マジっすか……」

仕方がないので剣を抜いた。

英雄「いざ、尋常に……勝負!」

勇者に任命されているだけあって、斬撃が素早くて且つ重い。
これほど強い同年代と出会ったのは初めてだった。

彼の使っている剣は聖剣の類だろうか。
俺の剣と刀身の長さはあまり変わらないが、幅が広く美しい装飾が施されている。

彼があまりにも真剣な眼差しで鋭い剣戟を繰り返すので俺は恐怖してしまった。
状況は俺の劣勢である。圧倒的に向こうの方が強い。

戦士「ふっ……くっ!」

甲板の端まで追い詰められたその時、剣に括り付けたトパーズが輝いた。

 

75: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:10:54.03 ID:GpRrX+/1o

 

体に力が漲り、俺は右上へ剣を振り上げて全力で斬り付けた。

英雄「ぐはっ!」

彼は俺の斬撃を受け止めきれず、数メートル後方へ吹っ飛んだ。

戦士「あっわりぃ! 生きてるか!?」

英雄「くっ、この程度で……うっ」

魔法使い「嘘でしょ……」

僧侶「アキレス様が負けた……」

傭兵「まだまだ子供だってこったな。相手も子供だが」

英雄「この私が……同年代どころか年上にも無敗を誇っていた私が敗北した……」

英雄「齢十六にして数々の武勲を上げ国の英雄となった私が……」

勇者「ちなみにヘリオス君は十五歳だよ」

英雄「あぁ……」

若き英雄は項垂れた。相当ショックを受けているようだが、俺自身呆気にとられている。

トパーズを見ると、輝きは消えていた。

 

76: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:11:40.65 ID:GpRrX+/1o

 

勇者「しかし君もなかなか筋がいいね。勇者の名を捨てることはないよ」

勇者「十年も修行を積めば素晴らしい英雄となれるだろう」

勇者「ああ、君はパイライトよりルチルの方が合うと思うよ」

英雄「…………」

戦士「あの、ナハトさん……」

勇者「潜在能力が目覚めかけているようだね。よかったよかった」

戦士「いや、あの……」

俺はズルで勝ってしまったような気がして罪悪感に苛まれた。
ナハトさんに魔適傾向を高めてもらっていなかったら当然負けていただろう。

勇者「君は君が元々持っている力を発揮できたというだけのことだよ」

勇者「誇るべきことだ」

戦士「はあ」

勇者「常にその力を自在に操れるようになれたら、世界一の強者となるのも夢じゃない」

戦士「ええっ」

戦士「いやでも、ナハトさんより強くなれる気なんてしませんよ」

勇者「はっはっは、僕がこの世にいるうちはそうかもしれないね」

 

77: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:13:18.32 ID:GpRrX+/1o

 

魔法使い「あなた、魔適体質よね。所属国はどこ?」

勇者「無所属だよ」

魔法使い「なんですって!?」

戦士「所属?」

勇者「魔適体質者は十万人に一人いるかいないかだからね」

勇者「悪用されないよう、生まれた瞬間に国から特別な登録を施される」

勇者「そして、厳重に保護されて育つんだ」

戦士「はあ」

勇者「国外に出ても監視され続ける」

勇者「特別不自由というわけではないが、一般人とは扱われ方が異なるね」

魔法使い「例え故郷を失っても、他の国に移籍されるわ」

魔法使い「だから無所属だなんてありえないのよ」

ちなみに多少魔適傾向が高いくらいでは魔適体質とは言えないらしい。

 

78: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:13:45.32 ID:GpRrX+/1o

 

魔法使い「……あなた、何者? 魔力から情報を読み取れないわ」

魔法使い「…………トランスジェンダー? 同性愛者? ……違うわね」

魔法使い「そっちの男の子も、普通の人間より魔適傾向が高いわよね」

戦士「はあ、まあ、ナハトさんのおかげで」

魔法使い「どういうこと?」

勇者「魔力の蓋を少し開けてあげただけだよ」

魔法使い「ありえない……他人の魔適傾向を変化させるなんて……」

魔法使い「そんなことが可能なら、今頃世界は人間兵器だらけよ……」

魔法使い「ただでさえ邪道の魔適体質なのに、普通の魔適体質者とも違う……」

戦士「……邪道?」

 

79: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:15:40.16 ID:GpRrX+/1o

 

魔法使い「魔法の類は、難しい学問を修めた上でプログラムを組まないと使えないのよ」

戦士「ぷ、プログラム……?」

魔法使い「ある程度魔適傾向が高くても、プログラム無しで使えるのは下級魔法だけ」

魔法使い「でも、魔適体質者はイメージだけで高度の魔術を発動することができてしまう」

勇者「ははは、だからしばしば嫉妬の対象とされるのさ」

魔法使い「ふん」

戦士「へえ……」

勇者「まあ、僕は知識として魔導学もかじってはいるのだがね」

魔法使い「あなた、おかしい……純度の低い魔鉱石を使っている時のような違和感があるわ……」

勇者「はっはっは、僕は一体何者なんだろうね」

勇者「ご想像にお任せするよ」

魔法使い「何なのよ、もう……」

海賊1「動くな!」

海賊2「翡翠を出せ!」

勇者「……おや。シージャックかい」

 

80: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:16:10.65 ID:GpRrX+/1o

 

海賊1「我等はムリスク海賊団! 逆らえば命はないぞ!」

何人か海賊が潜伏していたらしい。

英雄「待て!」

英雄「私は勇者アキレスである。この船での狼藉は許さぬ!」

海賊2「こいつがどうなってもいいのか!?」

婦人「ひぃっ!」

英雄「人質とは卑怯な……」

海賊3「おまえ、なかなか大粒の翡翠を持ってるじゃないか」

海賊3「浜辺で拾ったのか? 渡してもらおうか」

婦人「は、はい……」

海賊3「よし、今すぐ長寿の薬を精製してやろう」

海賊4「加工はムリスク1の術者である俺がやる」

戦士「あいつら……!」

勇者「まあ、動くのはもう少し待とう」

海賊は女性から奪った石に何か魔法をかけた。

 

81: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:16:55.57 ID:GpRrX+/1o

 

しかし、その石が薬になる様子はなく、爆発を起こした。

戦士「な、何が起きたんですか?」

ナハトさんは驚いている海賊達に近付き、石の破片を拾った。

勇者「……ああ、やはり。これはいわゆるキツネ石ですね」

海賊3「へ?」

勇者「キツネ石とは、ジェダイトとよく間違われる緑色の石の総称です」

勇者「翡翠には大きく分けて、ジェダイトとネフライトの二種類があります」

勇者「両者はよく似ていますが、全くの別物です」

勇者「一般的に翡翠として利用されているのはジェダイトの方ですね」

勇者「ネフライトも利用用途が無いわけではありませんが、」

勇者「石を魔鉱石として利用する際、」

勇者「使用する石の種類を間違えると予想外の事故を引き起こしてしまう場合があります」

勇者「ヘリオス君、特にテストは行わないがよく覚えておくように」

戦士「は、はい」

海賊1「見分け方はあるんですかい」

勇者「はっはっは、それを君達悪党に教える義理は……ありませんね」

海賊2「なっ……あれ?」

ナハトさんが話している間に、船の警備員達がいつの間にか海賊達を縛っていた。

 

82: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:17:27.77 ID:GpRrX+/1o

 

勇者「ご婦人、お怪我はありませんか」

婦人「は、はい……ありがとうございます」

海賊3「安心するのはまだはやいぞ!」

海賊3「我等の母船がこちらに向かっているのだからな!」

勇者「ほう……ああ、あの船ですか」

大きな海賊船が海の上を走っている。

ナハトさんはあの船に切っ先を向け、魔術で何本か雷を落とした。

剣に括り付けた宝石が輝いている。

勇者「海賊達を感電させました。しばらくは動くことができないでしょう」

海賊5「え……?」

勇者「あの船の動力源となっている魔鉱石にも魔術をかけました」

勇者「この先にある海兵隊の基地へ真っ直ぐ向かうことでしょう」

海賊2「そんな馬鹿な……」

英雄「つ、強すぎる……」

 

83: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:18:04.92 ID:GpRrX+/1o

 

――港

船員「助かりました、勇者様」

勇者「当然のことをしたまでですよ」

英雄「……仲間になっていただけませんか」

英雄「私達の目的は同じ魔王討伐です。協力し合うべきではありませんか」

勇者「せっかくのお誘いだがお断りさせていただくよ」

勇者「あまり大勢で旅をするのは好きじゃないんだ」

英雄「しかし……」

魔法使い「…………」

魔法使いの女性は相変わらず訝しげな目でナハトさんを見ている。

勇者「僕のさくらんぼ狩りの異名の由来を知っているかい?」

英雄「い、いえ……」

勇者「僕は無節操な者が大嫌いでね」

勇者「次々と男根を狩ったり不能になる呪いをかけたりしているんだ」

勇者「さっきの海賊団員も全員一生不能のままだろうね、ははは」

英雄「ひっ」

英雄「そ、それは……法に則った罰とはかけ離れている……」

勇者「僕は一般的な正義に基づいて悪を成敗しているわけではない」

勇者「僕等は仲間として相性が悪いと思うのだよ。まあ君達は君達で頑張りたまえ」

 

84: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:18:30.56 ID:GpRrX+/1o

 

港町を出て、北部の町へ向かう。

勇者「キツネは人を騙すというだろう?」

勇者「だから、翡翠の硬玉と間違われる石にはキツネ石という俗称がついたんだ」

戦士「タヌキ石は無いんですか?」

勇者「それは僕も気になっているんだ」

戦士「それにしてもこの大陸、派手な鳥がいっぱいいますね……」

赤や青、黄色などの鮮やかな鳥の群れが当然のように飛び交っている。

どうしてそんな敵に見つかりそうな色をしているのか不思議でならない。

勇者「正に色とりどり……なんてね」

戦士「…………」

 

85: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:19:07.28 ID:GpRrX+/1o

 

霧の立ちこめる町に着いた。
建物はどれも背が高く、空が狭い。気が滅入りそうだ。

宿に着いて少し休むと、ナハトさんは近くの酒場に行ってくると言って出ていった。

俺は歩き詰めで疲れていたから寝台に横たわった。

ふと、田舎が恋しくなった。
俺が育った村と大地が続いていないところまで来てしまった。

故郷は建物がほとんど一階建てで、
二階建てといえば村長の家か数少ない公共施設くらいだった。

この町よりも遙かに空が広々としていた。

こんなに空の狭い環境で暮らすなんて考えられない。
ゆったり雲の流れを眺めたり、夕日の彩を味わったりすることさえできないじゃないか。

 

86: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/16(水) 21:20:03.16 ID:GpRrX+/1o

 

――――――――
――

一、二時間ほど寝ていただろうか。

夜が訪れていたが、部屋の中より外の方が明るかった。
町が商店の明かりや街灯で照らされている。

床で何かが光を反射した。宝石のようだ。
明かりをつけて確認すると、紫色の石がくくられたネックレスだった。

アメジストとかいう石だろうか。ナハトさんの物だろう。チェーンが切れている。

彼はまだ帰ってきていない。

これを持って様子を見に行こう――と思って石に触れた瞬間、
映像が頭に中に流れ込んできた。

あまりにも恐ろしい光景に、俺の股間は縮みあがった。

 

第五話 霧の町

 

93: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:06:01.59 ID:SXiVIKcfo

 

ここは何処だろうか。
ややなだらかな黒いシルエットが夜空の下の方を切り取っている。多分山だ。

煉瓦造りの建築は破壊され、木造建築は炎を上げている。
その炎が、至る所に飛び散った血を照らしていた。

人が魔物達に好き放題殺戮されている。悲鳴が飛び交い、断末魔が反響した。

『ナハト君、お願い――』

血塗れの美しい女性が少年に向かって言葉を発した。

そこで視界が黒く染まり、俺は現実に帰ってきた。

戦士「はっ……はぁ……」

今の衝撃的な光景は一体何だったのだろう。
脂汗が涌き出る。あれは正に地獄絵図だった。

何度か深呼吸を繰り返し、どうにか落ち着きを取り戻す。

 

94: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:06:29.83 ID:SXiVIKcfo

 

ナハトさんは宿の近くの酒場で酔いつぶれていた。

店主「兄ちゃん、このお兄さんの仲間かい?」

戦士「……どれだけ飲んだんですか?」

店主「度数の低いカクテルを一杯だけだよ」

小さな逆三角形のカクテルグラスがそこに置かれていた。

勇者「う……」

戦士「……大丈夫ですか?」

勇者「はは…………」

勇者「お酒を飲んだことが……なかったから……飲んでみたいと思ったのだが……」

勇者「これほど……弱いとはね……ははは……」

 

95: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:07:22.87 ID:SXiVIKcfo

 

酒場に代金を支払い、ナハトさんを背負った。

自分より背の高い人を負ぶさるのは大変そうだと思ったが、
持ち前の筋力のおかげで意外と大丈夫だった。

勇者「すま、ないね……」

戦士「いいですよ別に」

勇者「石は……素晴らしいと思うのだよ……」

彼は酔いながらもいつもの長話を始めた。

勇者「気が遠くなるほど長い時間をかけて……大地から生まれた結晶なんだ……」

勇者「石の中には、それまで石が見てきた記憶を見せてくれるものもあるそうだよ……」

勇者「しばしば、記録媒体として……利用されているね……」

だとしたら、俺がさっき見た映像はアメジストに刻まれた記憶だったのだろうか。

勇者「ああぁ……」

……今、彼の股間と俺の腰が密着している。

俺はある違和感を覚えた。

 

96: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:09:03.16 ID:SXiVIKcfo

 

服越しなのだ。あてになる感触ではない。

だが、硬いというか……いや決してアレが反り立っていうという意味ではない。
弟を背負った時よりも妹を背負った時の感触と似ているような気がしてならないのだ。

俺は彼にさくらんぼを刈り取られた男達の姿を思い出した。

彼は細身で、男性にしては体毛が薄い。
顔付きも中性的だ。声だって男性にしてはわりと柔らかい。

もしかしてこの人、自分で自分のを……。

痛みを想像してしまい、一瞬力が抜けて転びそうになった。
俺の気のせいかもしれないのだ。

このことは忘れよう。

 

97: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:09:40.20 ID:SXiVIKcfo

 

翌日、ナハトさんの酔いは覚めたようだった。

勇者「ああ、君がこの首輪を拾ってくれたのか。ありがとう」

しかし、顔色が悪い。二日酔いだろうか。どんだけ弱いんだ。

勇者「これは母様の形見でね」

勇者「まさか鎖が切れたとは……もっと丈夫なものを新調しなければ」

そんなに大切な物だったのか。

勇者「窒息を防ぐため、鎖は力がかかったら切れるようにはなっているのだがね」

勇者「そこそこの強度があって錆びにくい物がいいだろう」

昨晩俺が見た映像については黙っておくことにした。

誰かがナハトさんの名前を呼んでいた。

俺が見た幻想じゃなく、実際にあった彼の過去だったかもしれないのだ。
他人に過去を覗き見られるなんて嫌だろう。

 

98: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:10:32.48 ID:SXiVIKcfo

 

勇者「ヘリオス君。君は、ローザ物語の原作を読んだことがあるかい?」

ローザ物語……魔王に攫われた姫を勇者が助け出し、結婚するという、
ごくごくありふれた内容の童話である。

戦士「いいえ……子供向けの絵本を読んだくらいです」

勇者「絵本や舞台劇では、原作の途中までしかえがいていないのだよ」

勇者「残酷な童話が、無難な内容に改変されて世に広まるのはよくあることなのだが……」

話の途中で、外から叫び声が聞こえてきた。

窓から街路を窺うと、一組の男女がいた。

男は残念そうな表情をして女性に背を向けた。

女性はたいそうショックを受けているらしく、数秒口元を手で押さえた後、
俺達がこれから行こうと思っていた装飾具店に走りながら入っていった。

 

99: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:11:31.30 ID:SXiVIKcfo

 

勇者「飲酒した時に母様の石を持ってさえいればこんなことには……」

アメジストには悪い酔いや二日酔いを防ぐ効果があるらしかった。

町人1「あの店の娘さん、暴漢に襲われたそうだよ。幸い犯人は捕まったらしい」

町人2「可哀想になあ……もう嫁の貰い手も見つからないだろうね」

店の前でそんな会話が聞こえてきた。

店に入ると、奥から何やら話し声が聞こえた。

母親「お願いだから部屋から出てきておくれ、リーザ」

父親「お父さん達はおまえを見捨てたりしてないから」

娘「もう放っておいて!」

勇者「おやおや、取り込み中のようだね」

父親「ああ、お客さん、いらっしゃい」

父親「すみませんね、娘が少々……」

母親「もう手首を切るのはやめて!」

戦士「ひぇっ……」

衝撃的な言葉が聞こえて、俺はビビってしまった。
自傷行為とかいうものをやっているのだろうか。噂には聞いたことがある。

 

100: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:13:11.31 ID:SXiVIKcfo

 

勇者「娘さんは……ああ、そういうことですか」

勇者「娘さんと、二人で話をさせていただけますか」

父親「ええっ……しかし、娘は心の医者に診てもらうのも嫌がり、」

父親「私達でも手を焼いているような状態でして……」

母親「紺色の髪……もしかして、噂の勇者様では」

勇者「おや、僕の武勇伝は大陸を越えていましたか」

母親「数々の女性を救っているという……」

父親「おお、どうか娘をお救いください!」

ナハトさんは奥の部屋へと入っていった。

父親「あれ以来、リリアは必要以上に男を怖がるようになった」

父親「暴れたりしなければいいのだが……」

母親「唯一心を許していた恋人にまで別れを告げられてしまったようだし……ああ……」

数分後、ナハトさんは娘さんを連れて部屋から出てきた。

 

101: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:13:49.90 ID:SXiVIKcfo

 

娘「お父さん、お母さん、心配かけてごめんなさい」

娘「私、頑張るわ。まだ命はあるんですもの」

娘さんの目は悲しそうではあったが、生きる気力が灯っているように見えた。

母親「あんなに傷だらけだった腕がこんなに綺麗に……」

勇者「新たな人生を歩むための障壁となりそうでしたからね」

勇者「治しておきました」

たったの数分で、ナハトさんは娘さんを元気づけることに成功したようだった。

父親「ありがとうございます、ありがとうございます」

母親「この恩は一生忘れません」

父親「ああ、そういえば、この店にはどういったご用件で」

勇者「この首輪の鎖が切れてしまいましてね」

勇者「この店で最も丈夫な物を……うっ」

戦士「おおう」

俺は倒れそうになったナハトさんを支えた。

勇者「すみません、二日酔いで」

母親「すぐに酔い醒ましをご用意しましょう」

 

102: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:14:23.80 ID:SXiVIKcfo

 

ナハトさんは無料で新しい鎖を入手することができた。
どれだけ代金を支払おうとしても受け取ってもらえなかったのである。

勇者「プラチナの鎖なんて、普通に買おうとすればなかなかいいお値段になるのだがね」

戦士「お金に替えられないほど大切な娘さんの心を救ってくれたナハトさんから」

戦士「お金をとるなんて無理だったんでしょうね」

勇者「いいご両親だよ……」

勇者「傷物にされてしまった娘をゴミのように捨てる親だって世の中にはいるのだから」

戦士「……ところで、どんなカウンセリングをしたんです?」

勇者「企業秘密だよ。はっはっは」

彼がどうやって娘さんを救ったのか非常に気になったが、
デリケートな内容だろうからあまり詮索するのも野暮だろう

俺はそれ以上追究しなかった。

彼はいつも通り微笑んでいるが、少し悲しそうな目をしているような気がした。

 

103: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:14:49.11 ID:SXiVIKcfo

 

勇者「ああそうだ、ローザ物語の話の途中だったね」

勇者「勇者は見事魔王を打ち倒し、姫君を救い出すことに成功しました」

勇者「その後、勇者と姫君は国に帰り、結婚しました」

勇者「その結婚は誰からも祝福されました。めでたしめでたし」

勇者「……ほとんどの絵本や舞台ではここで終わっているね」

戦士「俺が知ってるのもそこまでです」

勇者「……その後、姫君は子供を産みました」

勇者「しかし、産まれてきたのは勇者ではなく、魔王との子供でした」

戦士「ええ……」

 

104: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:16:17.33 ID:SXiVIKcfo

 

勇者「勇者は怒りました。亡き魔王だけにではなく、姫君にまで」

勇者「何故魔王に穢されたことを黙っていたのかと、姫君に詰め寄りました」

勇者「赤子は勇者の手により殺されました」

勇者「姫君は勇者に剣を向けられ、悲しみにより城から身を投げました」

勇者「かくして勇者は魔王の血筋を断ち、姫君の妹と再婚して国を統治しました」

勇者「国民は幸せに暮らしましたとさ」

戦士「なかなかえぐいっすね」

勇者「原作は、『穢れた女性は誰の子を孕んでいるかわからないから娶るな』」

勇者「という教訓を世に伝えるための物語なのさ」

勇者「いやあ、実に残酷だ。本当に報われない」

勇者「しかし、これは実際にありうる話だからね」

勇者「僕はいつかそんな悲劇が生まれない時代が訪れることを願っているよ」

執事「おや、もしや……あなたは、勇者ナハト様ではございませんか」

壮年の執事姿の男性に話しかけられた。

 

105: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/17(木) 20:17:44.51 ID:SXiVIKcfo

 

執事「もしよろしければ、私の依頼を受けていただけないでしょうか」

勇者「ふむ。どういった内容でしょう」

執事「我が主、フォーマルハオト・フォン・コーレンベルク卿の護衛でございます」

勇者「……ははは、善政で有名な侯爵家の当主様の護衛ですか」

戦士(侯爵……?)

勇者「私などでよろしいのですか」

勇者「腕利きの騎士を大勢お抱えでしょうに」

執事「近頃、この大陸は強い魔族が跋扈するようになりつつあります」

執事「是非とも北東部の都まで勇者様にご同行願いたく存じます」

勇者「…………」

勇者「わかりました。我々も北東へ向かっているところです」

執事「感謝いたします。ところで、フルネームをお伺いしてもよろしいでしょうか」

勇者「はは、私は故郷を失った根無し草故」

ナハトさんはご貴族の護衛を務めることとなった。

ということは、俺もおまけ程度だが一応護衛することになるのだろう。
俺は貴族とは無縁な生活を送ってきたただの平民である。
しかも侯爵。上位の方の貴族である。

ああ、緊張感で股間が切ない。

第六話 ガラスの館

116: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:44:21.17 ID:8QY+MzMMo

 

勇者「そう、そのまま剣に意識を集中するんだ」

ナハトさんに言われる通りに、剣に魔力を流す。

勇者「そのまま数分維持できるかな」

……一分経たずに魔力の流れは途切れてしまった。
俺は相当集中力が無いらしい。

勇者「魔術師にとっての最大の敵は何か知っているかい?」

戦士「いえ」

勇者「性欲及び性的快楽だよ」

勇者「一般の魔術師にも魔適体質者にも共通した弱点なんだ」

勇者「魔術を発動しようとしている時に性欲が沸いたり、快楽を感じたりすると、」

勇者「魔力の流れが途切れてしまう」

勇者「だから性欲の処理がとても重要なのだよ」

戦士「……性欲旺盛な年頃の少年にとって、魔術の使用はかなり困難なんじゃ」

勇者「その通りだね。高名な魔術師はしばしば無性欲者だよ」

117: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:45:37.85 ID:8QY+MzMMo

 

侯爵「君が勇者ナハトかね」

中肉中背の、髭を短く切りそろえた中年の男性と顔を合わせた。

侯爵「すまないね、道中が心配なものでね」

高位の貴族らしい威厳を感じられる――

侯爵「まあ、向かう方向が同じなら『一緒』に行ってもい『いっしょ』?」

というのは俺の気のせいだったようだ。

勇者「ははは、楽しい旅になりそうです」

俺は凍え死にそうだ。

俺達は馬に乗り、侯爵さんと執事さんは馬車のような何かに乗った。
馬車とよく似た形をしているが、馬が引いているわけではない。

勇者「魔鉱石を動力源とした車だよ。僕も見るのは初めてだ」

勇者「近年開発されたとは聞いていたのだがね」

侯爵「ふっふっふ。乗るかね? こんな奇怪な機械に乗る機会はなかなかないだろう」

戦士「う、馬でいいです」

幸い俺は兵士養成学校で乗馬の方法を習っていた。

侯爵「本当にいいのかね。きっと騎馬戦の時間は来ばせん」

勇者「なかなかいいセンスをしておられる」

誰か助けてくれ。

118: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:46:12.71 ID:8QY+MzMMo

 

オヤジという生き物は何かと寒いギャグを思いつくものである。

ナハトさんと壮年の紳士は気が合うようだった。

侯爵「ふっふっふ、まさか噂の勇者様に護衛してもらえるとは。サインをくだサイン」

勇者「はっはっは、コーレンベルク卿の光明なご高名はかねがね承っております」

侯爵「シャーフ、よくぞこの青年を連れてきてくれた!」

執事「はい」

戦士「……疲れません?」

執事「慣れております。ちなみに私の名はテオドリヒ・ライマンでございます」

戦士「じゃあシャーフって……」

執事「こちらの地方の古語で羊の意です。執事と羊をかけているのでしょう」

ああ、俺の地元の古語でいうシープか。

執事「我が主人はこういったあだ名を他人につけることがお好きなのです」

119: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:46:38.14 ID:8QY+MzMMo

 

召使「旦那様、この町の菓子を買って参りました」

侯爵「このワッフルは腐っておらぬか?」

召使「えっ焼きたてのはずですが」

勇者「わっ、古ー」

侯爵「ふっふっふ」

勇者「はっはっは」

召使「……」

可哀想に。

召使いは、面倒な人が増えたとでも言いたげな顔をした。

120: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:47:31.91 ID:8QY+MzMMo

 

北東の都へは二、三日かかる。
今晩は途中の小さな町に泊まることとなった。

白い石造りの建築が美しく、あちこちで綺麗な水が流れている。
湧き水が豊富らしい。

宿代は侯爵が負担してくださるそうだ。ありがたい。

現在は国際同盟によりほとんどの国で共通語が話されるようになり、
元々使用されていた言葉は古語となった。

古語の単語はよく人名として採用されている。

また、各国の古語も元を辿れば同じ言語だったりするため、
古語同士でも文法や響きが似ていることがある。もちろん全く違う場合もある。

ちなみに、俺の名は地元の古語じゃなくどっかの外国の神様から取られている。

ナハトさんの名前は……どうなのだろう。
少なくとも、俺の地元の古語の響きではない。

彼は今湯浴みに行っていた。彼の装身具が寝台の傍の台に置かれている。

灰色味のある淡い空色の石が嵌められたブローチと、以前見たアメジストの首輪だ。
水色の石の名前はわからない。

彼の魔力の色とは異なる色の石だが、同じ青系統だし相性は良いのだろうか――
と考えていると、二つの石が光り出した。

 

 

121: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:48:28.79 ID:8QY+MzMMo

 

なんらかの魔力が込められていたりでもするのだろうか。

しばらく眺めていると、はよ触れと言わんばかりに点滅し出した。
他人の持ち物に触るのは気が引けるが、俺は誘われるように手を伸ばしてしまった。

少年は血塗れの女性の傍から走り出し、一人の少女を見つけた。
彼は彼女の手を引いた。

……頭が痛い。次々と場面が移り変わる。

前方で少女が魔族の男に押さえつけられているのが見える。
景色が頻繁にぼやけてよく見えないが、犯されているようだ。

『ほらほら目に焼き付けろ! 守るべき女が犯されている姿をな!』

視界がグラついている。目が回りそうだ。

『やめろ! アルカ、アルカ!!』

『ナハ、ト……』

少女はこちらを向き、か細い声でその名前を呼んだ。

赤紫色の瞳は絶望に満ちている。

一旦視界が真っ暗になった。

 

 

122: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:49:04.54 ID:8QY+MzMMo

 

今度は少女の腹がすぐ目の前に見えた。腹の上には液体がかかっている。

炎の光に照らされて、それがおそらく白くて粘り気のあるものだとわかった。

他の景色は視界の外だ。映像は途切れ途切れで、しきりにブラックアウトを繰り返す。

『その絶望を噛み締めて生きるがよい! ふははははは!』

次の瞬間、少女の体は血塗れになった。

白い液体を浸蝕するように赤い液体が流れている。

『僕は、彼女を守れなかった』

映像が終わり、最後に少年の声が響いた。

 

 

123: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:49:44.48 ID:8QY+MzMMo

 

二つの石は輝くのをやめた。

戦士「うっ……」

あまりにも残酷だった光景に吐き気が込み上げる。

再び彼の過去を覗き見てしまったことに罪悪感を覚えたが、
何故この石は俺にそんなものを見せるのだろう。

翌日、町の噴水広場。

侯爵「なあゾンネンアウフガング君」

戦士「は、はあ」

こっちの古語で日の出という意味の言葉らしい。

わざわざ長くて言いづらいあだ名を付けなくても……と思う。

侯爵「君はあの青年のことをどう思うかね」

戦士「へ? ナハトさんのことですか? まあ不思議な人だと思ってます」

戦士「なんかこう……独特の雰囲気あるじゃないですか、彼」

侯爵「……」

 

 

124: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:50:26.72 ID:8QY+MzMMo

 

戦士「あの……何か気になることでも?」

侯爵「いいや……」

戦士「……?」

侯爵「……彼にあだ名を付けるとしたら、何がいいと思うかね?」

戦士「え、うーん……彼、夜が好きですし、髪も目もああいう色ですから、」

戦士「こっちの古語でそのまんま『夜』がいいんじゃないですか?」

侯爵「それがね、夜を意味する古語がナハトなのだよ」

ああ、じゃあナハトさんはこの辺の生まれなのかな。

侯爵「だから他に似合う言葉が無いかと思ってね」

戦士「……さくらんぼとかどうでしょう」

侯爵「ふっふっふ、名案かもしれないね」

 

 

125: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:51:41.56 ID:8QY+MzMMo

 

――
――――――――

勇者「だいぶ腕を上げたね」

戦士「あざっす」

馬を休ませている間に、ナハトさんは俺の剣の修行に付き合ってくれた。

侯爵「君は内包物の多い石を使っているのかね」

勇者「はい」

ナハトさんのアイオライトには、ヘマタイトとレピドクロサイトが含まれている。

侯爵「ふむ…………」

一般的に、純度の高い石の方が強い効力を発揮させやすい。
必ずしもではないが、内包物のある石を使いこなすのは比較的困難だそうだ。

侯爵「真実の愛を引き寄せる菫青石、血に力を与える赤鉄鉱、」

侯爵「そして目的の達成を導く鱗鉄鉱の三種か……器用だのう」

侯爵「君に愛する人はいるのかね」

勇者「ははは、どうでしょうね」

魔鉱石は使用者の力を増幅させる効果がある他、石固有の能力を持っている。
使いこなせたら便利なんだろうな。

なお、石言葉と石の能力が必ずしも一致しているわけではない。

商人が石を売る際に適当な売り文句を付けたり、
もたらされた結果が石の力によるものかどうか証明できなかったりするからである。

例えば、ヘマタイトに止血効果があることは魔導学的に証明されているが、
アイオライトが結婚を導くかどうかは証明されておらず、迷信扱いである。

 

 

126: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:52:15.13 ID:8QY+MzMMo

 

旅中、ナハトさんはとても楽しそうだった。

ずっと侯爵と笑顔で会話している。もちろん駄洒落を織り交ぜながら。

普段ほど人間味の無さは感じられなかった。
まるで、どこかに置き忘れてきた生気を取り戻しているかのようだ。

勇者「この辺りのさくらんぼはおいしいですね。艶が良い」

侯爵「あまりのおいしさに錯乱してしまいそうだろう。ふっふっふ」

勇者「はっはっは」

かなり失礼な表現になるが、普通の人間に見えるほどだった。

あまりにも普段の彼が死人のような雰囲気をまとっているので、
どうしてもそう感じてしまうのである。

 

 

127: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:53:32.36 ID:8QY+MzMMo

 

霧の町を出てから三日後、侯爵の館があるグラースベルクに到着した。

ガラスの原料が採れる鉱山がすぐ近くにあるらしく、
ガラス張りの建築物だらけである。

綺麗だが割れないのだろうか。ちょっと怖い。

侯爵「よくここまで私と来てくれたね。アリが十匹でありがとう」

侯爵「今夜は我が館に泊まっておいきなさい」

侯爵の館も大きなガラス窓だらけだ。

戦士「……敵襲の時とか大丈夫なんです?」

侯爵「何、心配することはない」

侯爵「この町の建物に使われているほとんどの窓ガラスは特殊な強化ガラスなのだ」

侯爵「煉瓦の壁よりも丈夫だよ」

侯爵「妻~ただいマントル~」

侯爵夫人「はいはいおかえりなサイクロプス」

細身で背の高い女性が俺達を出迎えた。

年齢は五十か六十ほどだろうか。
若い頃はさぞ美人だったのだろう。侯爵に付き合って洒落を言ってはいるが気品がある。

 

 

128: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:54:35.56 ID:8QY+MzMMo

 

俺は庶民だ。こんな城同前の建物に泊まるなんて緊張してしまう。

貧乏過ぎることはなかったが決して裕福でもない家庭に育った。
妹や弟も多い。

それでも兵士養成学校へ進学させてもらえたのだから親父には感謝している。

流石に卒業後に士官学校へ進む余裕は無く、
かといってすぐに兵士として働くには実力に満足できなかったためこうして旅をしている。

本当ならばすぐにでも稼いで家に金を入れた方が良いのだが、両親は自由にさせてくれた。

この建物はだいぶ古そうだ。歴史の重みを感じる。
そしてどこか寂しい雰囲気が漂っている。石壁の色は暗い灰色だ。

侯爵「そこのテラスで雑談でもしないかね」

勇者「はい。ヘリオス君、君もおいでよ」

戦士「はい」

寒いギャグを聞かされるのかなと思うと少し怖かったが、
一人でうろつく気にもなれなかった。

侯爵「コーヒーと紅茶、どちらがいいかね」

勇者「コーヒーでお願いします」

戦士「どっちでもいいですが……じゃあ紅茶で」

 

 

129: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 15:56:05.16 ID:8QY+MzMMo

 

まだ夕方ではないのだが、この部屋は太陽のある方向の反対側にしか窓がないため薄暗い。

飲み物と焼き菓子、果物が運ばれてきた。
さくらんぼも皿に乗っているがいまいち食べる気になれなかった。

侯爵「もしかして、君の姓はフォン・レッヒェルンではないかね」

勇者「……はっはっは、バレてましたか」

侯爵夫人「…………」

戦士「フォン? ってことは……ナハトさんって、貴族なんですか?」

名前にドとかファンとかフォンとかがつく人は大体貴族だ。

勇者「ま、本家とは遠く離れた分家だったがね」

戦士「ああ……そうだったんですか」

侯爵「…………」

勇者「レッヒェルン本家の使用人として務めていたよ」

勇者「主な仕事は本家の一人娘の遊び相手だったね」

貴族のような振る舞いをする人だなと思ってはいたんだ。納得である。

侯爵「二十年前、私の娘がレッヒェルン家の本家に嫁いだのだ」

 

 

130: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 16:00:08.35 ID:8QY+MzMMo

 

勇者「エルディアナ・フォン・コーレンベルク=レッヒェルン」

勇者「彼女は素晴らしい領主でした」

侯爵「…………」

勇者「嫁いだ約一年後、レッヒェルン領は魔物の軍勢に襲われました」

侯爵「その知らせを聞いた時は肝が冷えたよ」

魔族は人間を苦しめることを至高の喜びとする。
気まぐれに襲撃地を選び、適当に暴れては去っていくのだ。

故に、トラウマを植え付けるだけ植え付けて敢えて命を奪わなかったり、
殺すにしても少しずつ痛めつけて反応を楽しんでからにしたりすることが多い。

勇者「その際命を落とした夫に代わって、彼女は復興を成し遂げました」

勇者「しかし、今から八年前」

勇者「運が悪いことに、再びレッヒェルン領は襲撃されてしまいました」

侯爵「それ以来、娘や娘に付けた執事から手紙が来ることはなくなり、」

侯爵「しばらく経つと死亡が確認されたとの知らせが入った」

侯爵夫人「…………」

俺の部外者感が半端無いのだが、
席を外すタイミングが見つからないのでとりあえず空気になることにした。

 

 

131: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 16:01:08.39 ID:8QY+MzMMo

 

侯爵「その襲撃さえなければ、」

侯爵「私は孫娘の十歳の誕生日を数ヶ月遅れで祝っていたはずだった」

侯爵「なんせ遠方なものでね。なかなか会う目処が立たなかったのだよ」

侯爵「孫娘の顔を見られたのはたったの二回だけだった」

侯爵「深い赤紫色の瞳が印象的な、可愛らしい子だった……」

赤紫……俺が見た映像のあの子だろうか。

勇者「…………アルカディアは、魔王に蹂躙されました。そして……」

侯爵「……そうか」

勇者「これは彼女達の徽章です」

そう言ってナハトさんは二つのメダルを懐から取り出した。

それぞれ異なった紋様が刻まれている。
おそらく両家の物だろう。

侯爵「おお……」

侯爵夫人「ああ……エルディアナ……アルカディア……」

侯爵「……これらは君が持つべきものだ」

夫妻は涙を流している。

 

 

132: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 16:02:20.90 ID:8QY+MzMMo

 

翌日

侯爵「もう行ってしまうのかね」

勇者「はい」

侯爵「……一つ教えてほしい」

侯爵「君の旅は世界を守るための旅かね。それとも、復讐の旅かね」

勇者「どちらかと言うと復讐ですね」

侯爵「ならば、そんなことはやめて、私達と共に暮らさないかい」

侯爵「七つの聖玉無き今、魔王を倒したところで永遠の平和が訪れるわけではない」

七つの聖玉……魔物を封印するために古代技術が生み出した秘宝である。
数十年前に行方不明となってしまい、現代は魔物が跋扈するようになった。

だから、魔王を倒せば一時的に魔物がこの世から消えるらしいが、
数年だか数十年だかすれば復活してしまうそうだ。

あらゆる国が七つの聖玉を探しているが、まだ一つも見つかっていない。

勇者「……他に、生きる理由が見つかりませんから」

 

 

133: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 16:04:30.56 ID:8QY+MzMMo

 

侯爵「これを、君に持っていってほしい」

侯爵はナハトさんに、深い赤紫色の石がくくられた髪飾りを手渡した。
金属の細かい装飾が石を囲んでいる。

侯爵「八年前、孫娘に贈るはずだった物だ」

侯爵「輪になっている部分に紐でも通せば首飾りとして身に着けられるだろう」

ナハトさんはその髪飾りを切なげに見つめている。
口元は僅かに微笑みを保っているが、人間らしい悲しげな表情をしていた。

侯爵夫妻は名残惜しそうだった。

血塗れになったあの女の子の姿を思い出した。
ナハトさんは、今までどんな思いで生きてきたのだろう。

あまりにも残酷な過去に、胸が切なくなった。

 

 

134: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/19(土) 16:07:13.66 ID:8QY+MzMMo

 

――――――――

私は勇者ナハトの噂を耳にした。

ナハト……こちらの地方の名前を持つ者が、南の大陸で名を上げている。

私は彼がどのような人間なのか興味が沸いた。
彼は魔王を倒すために北へ向かっているらしかった。

丁度霧の町へ行く用事があったため、護衛を頼むという名目で接触してみようと思った。
有能な執事がすぐにナハトを見つけてきてくれた。

私はナハトを一目見た瞬間、激しい既視感を覚えた。
ナハトは娘婿であるレッヒェルン辺境伯とよく似ていたのだ。

ナハトの魔力は読み取りづらかったが、
ナハトは確かにレッヒェルン家の魔力をまとっていた。

レッヒェルン家……私は、再会できなかった娘と孫娘のことを激しく思い出した。

私は嗜み程度にしか魔導学を学んでいないが、
生まれつき魔力から情報を読み取るのはわりかし得意であった。

打ち解ければ打ち解けるほど、ナハトの魔力は少しずつ読み取りやすくなっていった。

侯爵「ああ……生きてさえいれば、いくらでもやり直せるというのに」

執事「旦那様、第二次レッヒェルン領襲撃時の死亡者の名簿でございます」

侯爵「……ナハト・フォン・レッヒェルン、享年十二歳……か」

――――――――

第七話 天青石

143: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:31:39.45 ID:/ofkq/1Lo

アモル教という、世界のほとんどの人々が信仰している宗教の本拠地がある国に到着した。

魔物は瘴気を纏っており、魔物を退治しても大地が瘴気で穢れてしまう。
その際瘴気を浄化してくれるのがアモル教の聖職者である。

アモル教徒じゃなくても浄化作業はできるが、修行を積んだ人の方が確実に浄化できる。

勇者「この町は比較的生真面目な人が多く、穢れを嫌う風潮が強い」

勇者「そのため風俗店が一店も存在しないのだよ」

戦士「こんなに大きな町なのに珍しいっすね」

勇者「水面下では性犯罪が多いらしい」

戦士「ああ、捌け口が無いですもんね」

女性「キャアアア!」

勇者「ちょっと狩りに行ってくるよ」

戦士「どうぞ」

 

 

144: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:32:54.34 ID:/ofkq/1Lo

 

僧侶「ありがとうございます、勇者様」

牧師「残念なことに、この頃このような事件が増えておりまして」

僧侶「噂では、勇者様は、その……暴漢や盗賊に勃起不全の呪いをかけているとか」

勇者「……私を逮捕しますか?」

僧侶「いえいえとんでもない」

僧侶「性犯罪の防止のため、できることならその術のソースコードを頂きたいのです」

僧侶「勇者様は魔適体質ですから、コードなんて持っておられないかもしれませんが……」

勇者「ああ、すぐに書けますよ」

ナハトさんは指先に光を灯すと、宙に文章を書き出した。

普通の魔術師はあらかじめ魔法の発動方法と内容を魔力で記し、
それを自分の中に保存して、いつでも引き出せるようにしているらしい。

勇者「紙はお持ちですか」

牧師「は、はい」

ナハトさんは書き終えた文章を縮小し、牧師さんが持っていたノートに貼り付けた。
文字が焼け跡のように刻まれている。

牧師「お、おおおおおお!!」

僧侶「こ、これほど簡単なコードなのですか……」

牧師「発動条件を少し加えるだけですぐに町全体にかけられるコードになりますぞ」

勇者「お役に立てたようでよかったです」

 

 

145: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:34:19.50 ID:/ofkq/1Lo

 

勇者「この町の中で性犯罪を行おうとしたら不能になる結界を張ることが決定したそうだよ」

戦士「よかったですね」

勇者「成功したら他の町にも広めていくらしい」

ナハトさんは何時に無く機嫌がいい。

性犯罪の被害者が生まれない世界の実現が夢ではなくなったのだ。
この人にとってさぞかし喜ばしいことだろう。

町人1「なあ、聞いたか?」

町人1「こないだ女性が上級魔族に暴行されたらしいんだが、」

町人1「瘴気にやられることなく元気に生きてる上に、異常に魔適傾向が高まったらしい」

町人2「たまーにあるらしいなそれ」

町人2「普通魔族に犯された女なんて、浄化してもゴミ扱いされて自殺するか、」

町人2「浄化せず瘴気に侵されて死ぬかの二択だもんなあ」

町人2「ああ、稀に魔族化しちまうこともあるんだっけ?」

町人1「その女性は特別に客員魔法使いとして西の国で雇われることになったそうだ」

町人1「人生どう転ぶかわかんねえよな~」

 

 

146: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:37:53.08 ID:/ofkq/1Lo

 

戦士「魔族に暴行されて魔適傾向が高まるなんてこと、ほんとにあるんですか?」

勇者「……ああ、あるよ」

勇者「魔族はそのほとんどが魔適体質だからね」

勇者「魔族の瘴気が人体に何らかの作用をもたらし、後天的に魔適傾向が高まるのだよ」

勇者「完全な魔適体質となるのは非常に珍しいがね」

勇者「ああ、ここで言う『完全な魔適体質』とは、魔適傾向が100マジカル以上で、」

勇者「髪が魔力の色に染まるレベルを指している」

戦士「へえー……」

不思議なこともあるもんだな。

ちなみに、人間のほとんどは魔適傾向が5マジカル以下である。

修行を積むと少しずつ魔適傾向が上がるが、
どんなに頑張っても10マジカルが限界らしい。

10マジカルあると小規模な魔法ならイメージだけで使えるそうだ。
そして、100マジカルは大型のドラゴンを二、三撃で倒せるくらいだとか。

戦士「俺はどのくらいあるんですか?」

勇者「20だね。頑張れば自力で50まで上げられるよ」

20あってもなかなか上達しないのは性欲が旺盛なせいだろうか。

戦士「ナハトさんは?」

勇者「200くらいかな」

規格外だった。強いわけだ。

 

 

147: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:41:17.36 ID:/ofkq/1Lo

 

なお、魔適傾向が高くても必ずしも大規模な魔術をイメージで発動できるわけではない。

魔適傾向とは体に対する魔力の馴染みやすさを表す単位であって、
保有する魔力の大きさとは全く別なのである。

どんなに魔適傾向が高くても、魔力容量が小さければ小規模な魔法しか発動できない。
ナハトさんは魔力容量も相当大きいのだろう。

ただし、魔適傾向と魔力容量に任せて大きな魔術を使いすぎると、
人体に大きな負担がかかってしまうらしい。

オウム「コーンニッチハッ」

商人「この鳥はとても賢いのだが、その分心の病にもかかりやすくてね」

商人「オウムを飼うのはOh! 難しい……なんちて」

勇者「ははは」

戦士「…………」

 

 

148: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:41:50.65 ID:/ofkq/1Lo

 

――
――――――――

俺達は更に北へと向かい、雨の都に到着した。

降水量が多いらしい。じめじめしている。

霧の町よりもどんよりとした空気が漂っていた。

戦士「けほっ……」

雨に濡れたおかげで俺は風邪をひいてしまった。
フラフラする。

まあ買い物も終わったし、後は宿に行って寝るだけだ。

ナハトさんに移らないといいのだが……。

……あの人が風邪をひいているところを想像できない。
あの人は病気になったことがあるのだろうか。

 

 

149: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:42:17.69 ID:/ofkq/1Lo

 

男1「なあそこの少年」

男2「ちょっと付き合ってくれねえか」

戦士「へ?」

ガラの悪そうな男二人に絡まれてしまった。

そういえば、この町はあまり治安がよくないとナハトさんが言っていた。

戦士「すみません、急いでるんで――」

腹を一発殴られ、壁に追い詰められた。
男二名を見上げると、二人は股間にテントを張っていた。

そう、テントを張っていたのだ。

戦士「……え?」

あれか、目的は金を取るとか、憂さ晴らしに殴ったり蹴ったりするとかじゃなくて、
そっちの人か。

 

 

150: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:43:20.36 ID:/ofkq/1Lo

 

男2「まだガキだがなかなかいい筋肉してるじゃねえか」

男1「男は初めてか?」

戦士「ひっ!」

どうにか逃げようと体を引きずったが失敗に終わった。
風邪の所為か恐怖の所為か、体が動かない。

男1「まあしゃぶれよ」

戦士「むっ、無理です」

男が服の切れ目からいきり立った息子を出した。

かなりでかい。そして黒い。

男2「引き締まった良い尻だな」

戦士「え゛っちょっうああああああ!」

もう一人の男が俺の背後に回り、ズボンを引きずり下ろそうとしている。

戦士「あ、あの、あ、ああぁぁぁ」

もう怖くてまともに言葉を発せない。

このまま俺は犯されてしまうのか。童貞非処女にされてしまうのか。

貞操の危機を感じていると、目の前の男の股間が何者かの膝に蹴り上げられた。

 

 

151: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:45:19.83 ID:/ofkq/1Lo

 

男は股間を押さえてうずくまった。

現れたのは、紺色の服を纏っている見慣れた青年だった。

俺が安堵したのも束の間、

勇者「……」

彼はうずくまった男の股間を無表情・無言で何度も踏みつけた。

男1「あがっがっぎゃふっぎゃああ!!」

あれは痛い。痛いどころじゃない。

男2「ふぃい!?」

俺のズボンに手をかけていた男も恐れ戦いている。

彼はその男の方へ冷たい眼差しを向けた約一秒後、
跳んで男の鼻に蹴りを食らわせ、
倒れたところで先程の男にしたのと同様に股間を踏みつけた。

俺は震えが止まらない。

先に倒された方の男は、急所に攻撃されたショックで嘔吐している。
つい痛みを想像してしまい、俺の呼吸は浅く、激しくなった。

俺は彼が攻撃をやめるまで耳を塞いで目を閉じることにした。

 

 

152: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:46:28.99 ID:/ofkq/1Lo

 

戦士「あう……うぅ……」

勇者「……大丈夫かい。怖かったろう」

戦士「ひぅぅ……う……う……」

暴漢達も怖かったが、ナハトさんが彼等に下した制裁も非常に恐ろしかった。

足腰が立たなかったので、ナハトさんに肩を貸してもらってなんとか宿に戻った。

……やっとベッドに横たわることができた。

勇者「……セレスタイト。休息の石だ。君を癒してくれるだろう」

ナハトさんは、ベッドの横にある照明が置かれた台にブローチを置いて何処かへ行った。

体調不良と先程の出来事で悪夢を見そうだ。疲れた。

彼が置いていった石に目をやった。

……半透明のくすんだ空色の石に吸い込まれるかのように、俺は眠りに落ちた。

 

 

153: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:47:52.60 ID:/ofkq/1Lo

 

『僕は、彼女を守れなかった』

どこかナハトさんの面影のある少年が喋っている。

しかし、彼の瞳は藍色ではなく、明るい青だ。

口を動かしているが、ほとんど聞き取れない。

『君――な――――』

なんて言っているんだ?

『このままじゃ――――』

『――――――――――――――――――』

――――――――
――

戦士「はっ……」

脂汗をかいている。
悪夢は見なかったが、良い夢でもなかった。

体調はさっきよりもだいぶ良くなっていた。

 

 

154: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:48:54.07 ID:/ofkq/1Lo

 

今のはただの夢だろうか。
それとも、またこの石が見せた映像だったのだろうか。

勇者「ヘリオス君、起きてるかい?」

部屋の扉が開いた。

勇者「食欲はあるかな。厨房を借りてお粥を作ってきたのだが」

戦士「あ……ありがとうございます」

最初は剣の面倒しか見ないと言っていたのに、この人は本当に気を遣ってくれる。

普段は簡易な保存食か買い食いか外食で済ましているのに、
今日はわざわざ俺のために料理までしてくれたんだ。

風邪をひいた時、母さんが看病してくれたことを思い出した。

寝込んでいる時に食べる母さんのお粥はおいしかった。

戦士「すみません、体調を崩してしまって」

勇者「構わないよ。僕もたまにはゆっくりしたかったからね」

ナハトさんは人間味のある微笑みを浮かべた。
俺の看病をしてくれていた時の母さんのような、優しい目だ。

ナハトさん、はじめて会った頃よりも髪が伸びたなあ。
こうして見ると綺麗な女の人のようだ。時折俺はこの人の性別がわからなくなる。

 

 

155: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:49:39.74 ID:/ofkq/1Lo

 

二日後、俺はすっかり回復した。
町を出て北へと向かう。

日が落ちて夜が訪れたが、もう少し歩けば村があるはずだ。

あるはずだった。

夜になったというのに、空の一角が夕焼けのように赤くなっている。

進むと、崖から村を見下ろすことができた。

村は、魔物の群れに襲われて燃え上がっていた。
はやく助けに行かなければ。

戦士「ナハトさん!」

勇者「……綺麗だ」

 

 

156: ◆qj/KwVcV5s 2016/03/21(月) 17:50:29.11 ID:/ofkq/1Lo

 

戦士「…………?」

俺の前方に立っているナハトさんは、その光景に見入っているようだった。

勇者「炎が闇の中で火の粉を撒き散らしている」

勇者「美しいとは思わないかい」

戦士「そんなこと言ってる場合じゃ……」

彼は上半身を少しだけ振り向かせ、こっちを向いた。

勇者「僕はね、正直、こんな世界滅んでしまえばいいとさえ思っているのだよ」

勇者「こんな僕に、勇者の名がふさわしいわけがない」

彼は、どこか自嘲気味に微笑んでいた。

その村の景色は、俺が石から見せられた映像とよく似ていた。

なんて恐れと悲しみに満ちた眺めなのだろう。

股間が切ないとか考えている余裕はない。

 

 

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